ES 地面の目印

以前の数学メモは、地面の目印 -エスワン- にあります。

メモ29 有限体上の楕円曲線に関する問題

1.はじめに

 Silverman Tate のRational Points on Elliptic Curves(以下,[Sil]と記す)の第4章は有限体上の楕円曲線を扱っている。章末の練習問題に取り組み始めたので、備忘録としてメモしておく。解答が不完全であったり、誤りがあったりする可能性はありますことご注意ください。誤りにお気づきの節はご連絡いただければ幸いです。

※7月17日に4.2【問題】の解答の流れを追加した。

2.問題

4.1【問題】
p \ne 2素数a,b,c,d∊F_{p},\hspace{5pt}acd \ne 0C を円錐曲線

C:ax^{2}+bxy+cy^{2}=dz^{2} とする。このとき、(a),(b)を示せ。

\hspace{10pt} (a)\hspace{5pt} b^{2} \ne 4ac ならば \#C(F_{p})=p+1
\hspace{10pt} (b)\hspace{5pt} b^{2}=4ac ならば \#C(F_{p})=1 または 2p+1 

また、これらの例をあげよ。

【解答の流れ】

(a) 

C:ax^{2}+bxy+cy^{2}=dz^{2} を変形して

a(x+\frac{b}{2a}y)^{2}+\frac{-b^{2}+4ac}{4a}y^{2}=dz^{2}

したがって、最初から b=0 としてよい。

 次の①、②の順に説明する。

 

① この円錐曲線上に有理点(x_{0},y_{0}) が存在するとして(a) を示す。

② この円錐曲線上に有理点(x_{0},y_{0}) が存在することを示す。

 

① 円錐曲線上に有理点(x_{0},y_{0}) が存在するとして(a) を示す。

 1)\hspace{5pt} z \ne 0 のとき:

 同次座標での解を求めるので z=1 とする。

  (x_{0},y_{0}) 以外の解は、円錐曲線と (x_{0},y_{0}) を通る直線との交点 (x,y) として得られる。

 直線の方程式 y=t(x-x_{0})+y_{0}を円錐曲線の式に代入すると

 

 ax^{2}+c \{ t(x-x_{0})+y_{0} \}^{2}-d=0

 ax^{2}+c \{t^{2}(x-x_{0})^{2}+2y_{0}t(x-x_{0})+y_{0}^{2}\}-d=0

 (a+ct^{2})x^{2}+(-2ct^{2}x_{0}+2y0tc)x+ct^{2}x_{0}^2-2cy_{0}x_{0}t+cy_{0}^2-d=0

 

 x,x_{0} がこの方程式の解なので、

 

 x+x_{0}=(2cx_{0}t^{2}-2cy_{0}t)/(a+ct^{2})
 x=(cx_{0}t^{2}-2cy_{0}t-ax_{0})/(a+ct^{2})
 y=y_{0}+t(x-x_{0}) \\ \hspace{7pt}=y_{0}+t(-2cy_{0}t-2ax_{0})/(a+ct^{2}) \\ \hspace{7pt}=(-cy_{0}t^{2}-2ax_{0}t+ay_{0})/(a+ct^{2})

 

 このように、解 x,yt の有理式として表される。

  -a/c が 平方剰余のとき:

 a+ct^{2}=0 の解となる2つの t 以外の t に対応する p-2 個の解、および (x_{0},y_{0}) の計 p-1 個の解がある。

  -a/c が 平方非剰余のとき:

 t に対応する p 個の解および (x_{0},y_{0}) の計 p+1 個の解がある。

 

 2)\hspace{5pt} z=0 のとき:

  -a/c が 平方剰余のとき:

 ax^{2}+cy^{2}=0 の解が2個ある。

  -a/c が 平方非剰余のとき:

 ax^{2}+cy^{2}=0 の解はない。

 

 以上の 1),2) より、①がいえた。

 

② この円錐曲線上に有理点(x_{0},y_{0}) が存在することを示す。

  -a/c が 平方剰余のとき:

 k \in F_{p} が存在し、  -a/c=k^2 よって、

 ax^{2}+cy^{2}=a(x^{2}-k^{2}y^{2})=a(x+ky)(x-ky)=d

 x=(d/a+1)/2,\hspace{5pt}y=(d/a-1)/2\cdot k とおけば

 x+ky=d/a,\hspace{5pt}x-ky=1 となり解があることがわかる。

 

  -a/c が 平方非剰余のとき:

 d/a または d/c が平方剰余であれば、y=0 または、x=0 とする解があることは容易にわかる。

 d/ad/c も平方非剰余とするとき、yF_{p} 全体を動くとき、-c/ay^{2}+d/a の値域を考える。
 F_{p} は0、平方剰余、平方非剰余の3種類の共通部分のない集合の和である。また、平方剰余の集合と非平方剰余の集合の元の数は等しい。
 yF_{p} を動くとき -c/ay^{2} は、y=0 であれば 0、平方剰余の集合は平方非剰余に、非平方剰余の集合は平方剰余に写される。これに d/a を足すと 0 は平方非剰余に、平方非剰余(もともとの平方剰余)のうちの一つは0になるので、平方剰余(もともとの平方非剰余)のうちの一つは平方剰余になることがわかる。これは、x^{2}=-b/ay^{2}+d/a が解を有することを意味する。

 

 以上で②がいえた。

 

(b)

  b^{2}=4ac ならば円錐曲線の式は a(x+b/(2a)y)^{2}=dz^{2}
 d/aが平方非剰余ならば、解は x+b/(2a)y=0,z=0 の一つのみ。
 平方剰余ならば、z=0 のとき x+b/(2a)y=0 の解が一つある。
         z=1 のとき d/a=k^2 とするとき x+b/(2a)y=±k を満たす解が2p個ある。よって、計2p+1 個の解がある。

 

例について

p=3 とする。

(a) の例: x^{2}+y^{2}=z^{2} の斉次座標での解は、 (0,1,1),(0,1,2),(1,0,1),(1,0,2) 

(b)d/a が平方非剰余の例:x^{2}+xy+y^{2}=2z^{2} の斉次座標での解は、(1,2,0) のみ

(b)d/a が平方剰余の例:x^{2}+xy+y^{2}=z^{2} の斉次座標での解は、(0,1,1),(0,1,2),(1,0,1),(1,0,2),(1,1,0),(1,2,1),(1,2,2) の7個

 

4.2【問題】
 素数p=3,7,11,13 について、有限体上の楕円曲線  C:y^{2}=x^{3}+x+1 の有理点群 C(\mathbb {F}_{p}) を求めよ。

【解答の流れ】

\mathbb {Z} 係数の多項式 f(x)=x^3+x+1 について

f(0)=1,f(1)=3,f(2)=11,f(3)=31,f(4)=69,f(5)=131,f(6)=223, \\ f(7)=351,f(8)=521,f(9)=739, f(10)=1011,f(11)=1343,f(12)=1741 である。

 次にf(x) の値を mod\hspace{5pt} p で平方剰余かどうか考えてC(\mathbb {F}_{p}) を求める。

p=3 のとき

 f(0)=1, f(1)=0,f(2)=2 であり、2\mathbb {F}_{3} で平方非剰余。したがって、集合として C(\mathbb{F}_{3})=\{\mathcal{O}, (0,±1), (1,0)\} である。 y=0 の点は1点のみなので、群として C(\mathbb{F}_{3}) \cong \mathbb{Z}/4\mathbb{Z}

p=5 のとき

 f(0)=1,f(1)=3,f(2)=1,f(3)=1,f(4)=4 であり、3\mathbb{F}_{5} で平方非剰余。したがって、したがって、集合として C(\mathbb{F}_{5})=\{\mathcal{O},(0,±1),(2,±1),(3,±1),(4,±2)\} である。有理点 Px 座標を x(P) とすると、x(2P)=\frac {x^{4}-2x^{2}-8x+1}{4y^{2}}  である。 P=(3,1) とすると x(2P)=(3^{4}-2\cdot3^{2}-8\cdot3+1)/(4\cdot1^{2})=0 よって、2P \neq -P これより、群として C(\mathbb{F}_{5}) \cong \mathbb{Z}/9\mathbb{Z}

p=7 のとき

 f(0)=1,f(1)=3, f(2)=4,f(3)=3, f(4)=6, f(5)=5, f(6)=6 であり、3,5,6 は平方非剰余。したがって、集合として

 C(\mathbb{F}_{7})=\{\mathcal{O},(0,±1),(2,±2)\} である。また、群として、 C(\mathbb{F}_{7}) \cong \mathbb{Z}/5\mathbb{Z}

p=11 のとき

 f(0)=1, f(1)=3, f(2)=0, f(3)=9, f(4)=3, f(5)=10, f(6)=3,\\ f(7)=10, f(8)=4, f(9)=2, f(10)=10 であり、10,2 は平方非剰余。 したがって、集合として

 C(\mathbb{F}_{11})=\{\mathcal{O},(0,±1),(1,±6), (2,0),(3,±3),(4,±6),(6,±6),(8,±2)\}

群として、C(\mathbb{F}_{11}) \cong \mathbb{Z}/14\mathbb{Z}

p=13 のとき

 f(0)=1, f(1)=3, f(2)=11, f(3)=5, f(4)=4, f(5)=1, f(6)=2,\\ f(7)=0, f(8)=1, f(9)=11, f(10)=10, f(11)=4, f(12)=12 であり、 11,5,2 は平方非剰余。したがって、集合として、

C(\mathbb{F}_{13})=\{\mathcal{O},(0,±1),(1,±4),(4,±2),(5,±1),(7,0),(8,±1),(10,±6),(11,±2),(12,±5)\} である。P=(1,4) とすると x(2P)=(1^{4}-2\cdot1^{2}-8\cdot1+1)/(4\cdot4^{2})=8 である。また、点 (4,2),(5,1),(8,1),(10,6),(11,2),(12,5)2 倍の x 座標は、それぞれ 8,4,11,10,4,11 である。したがって、位数が3 の元は (10,±6)しかない。よって、C(\mathbb{F}_{13}) \cong \mathbb{Z}/18\mathbb{Z} である。