1.はじめに
Silverman Tate のRational Points on Elliptic Curves(以下,[Sil]と記す)の第4章の練習問題を(未解答を含め)解いてみた結果を記したメモの(その2)です。解答におかしなところがあれば、是非ご連絡下されば嬉しいです。また、なんとも、ごちゃごちゃした解答なのですっきりした解答をご教示いただければ幸いです。
(以下青字部分追記:2022-8-8、修正:8-12)
有限体上の楕円曲線の有理点の章の問題なのに、その結果を使わないのも変だと思っていましたが、法pでの還元定理を使えば比較的容易に解決することがわかりました。
そのヒントは問題4.8と問題4.10にありました。前者は問題4.9、後者は問題4.11のヒントになります。ここでは後者を使った問題4.11の解答の流れを簡単に示します。
問題4.10の主張は以下のとおりです。
問題4.10
を素数、 を の元とする。このとき、曲線 に対し
この結果を用いると、問題4.11において、 の判別式の 倍を割らない素数 について となります。法p還元定理を用いると
は 単射準同型となるので は の約数となります。今、ディリクレの算術級数定理により、このような素数 をとります。 とすると、は奇数となるので、 と置き直します。すると、 となります。次に、 と は素であるとします。すると、算術級数定理により の形の素数がとれます。 に を足すと、 となります。 は と の最大公約数 の約数になります。
と が素でない場合、 は を素因数として含みます。それ以外の の素因数の積を とおきます。このとき、 と は互いに素となります。よって、算術級数定理により の形の素数がとれます。 に を足すと、 となります。このとき、 の 以外の素因数と は互いに素となります。 が で割り切れるとすると、 となります。したがって、 の 以外の素因数の中に で と合同でない素数 が存在します。 を改めて とおき、上の議論を繰り返せば、 と は互いに素であることがわかります。したがって、 と の最大公約数 は となることがわかります。
これで問題4.11の がいえたことになります。後は、位数2の元と位数3の元を具体的に定めることで解答が得られます。
2.問題
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【問題4.9】
を 4乗素因数のない0でない整数とする(つまり、 となる素因数 が存在しないこと)。また、 を以下で定義される楕円曲線とする。
さらに、 を有限位数の有理点からなる群とする。このとき、以下を示せ。
は4を割る。
より正確には、 は以下で与えられる。
\begin{eqnarray}
\Phi
\cong
\begin{cases}
\mathbb{Z} / 4\mathbb{Z} & ( b=4 ) \\
\mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} \oplus \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} & ( -b= square ) \\ \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} & (otherwise)
\end{cases}
\end{eqnarray}
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解答の流れ
をまとめて解答する。
をいうには、 には奇数位数の元及び4より大きい2のべき乗位数の元が存在せず、位数4の元は最大1つ、位数2の元は最大3つしか存在しないことをいえばよい。
① に奇数位数の元及び4より大きい2のべき乗位数の元が存在しないこと
そのような元 が存在すると仮定する。 が奇数位数とすると、自然数kが存在して、
よって、 である。 また、 が より大きい のべき乗位数の元とすると、 を何倍かすると位数 の元 となる。このとき、 は位数 の元であり、その 座標は ではない。
したがって、①をいうには、有理点 の 座標は でない で となるペアは存在しないことをいえばよい。
今、有理点 について とする。(*)
楕円曲線の点の 倍の公式から
の判別式は であるので、Nagell-Lutzの定理より とすると である。したがって、 が 以外の素因数 を含むとすると である。
より である。
が奇数とすると、 より は奇数で、 は偶数。また、 は整数であることから は を割るので は奇数。これは、矛盾。
が偶数とする。 を奇数とすると は4の倍数なので よって 一方、 は の倍数であるので、4の倍数でもある。よって、 これは矛盾。よって は のべき乗である。
より 、または、 である。また、 である。
は整数であり、 なので、
ならば ①
ならば ②
①より、 よって、 また、の素因子2の指数は3以下なので、 となることはない。したがって、 のみ可能。 のとき、 より 、さらに これは矛盾。 のときは、 が2のべき乗とならないためありえない。
②より、 よって このとき である。bは4乗因子を含まないのでこのケースもない。
② 位数 の元は最大1つしか存在しないこと
を位数 の元とすると、 である。 なので
または である。
のとき、 より である。よって、 である。 とも整数であるので、 である。 とすると、 である。
のとき、 より、 つまり、 の素因数の指数はすべて 以上である。したがって、 及び は を素因数として含まない。よって、 は奇数である。 であるので は偶数、しかも で割れる。したがって、 である。一方、 は を素因数として含まず、 は で割れるので、 これは矛盾。したがって、位数 の元が存在するのは、 のときのみである。
③ 位数 の元は最大3つしか存在しないことをいう。
位数 の有理点の 座標は したがって、 よって、 または、である。
したがって、位数 の有理点は、 及び が平方数のとき である。
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【問題4.11】
を 6乗素因数のない0でない整数とする(つまり、 となる素因数 が存在しないこと)。また、 を以下で定義される楕円曲線とする。
さらに、 を有限位数の有理点からなる群とする。このとき、以下を示せ。
は6を割る。
より正確には、 は以下で与えられる。
\begin{eqnarray}
\Phi
\cong
\begin{cases}
\mathbb{Z} / 6\mathbb{Z} & ( c=1) \\
\mathbb{Z} / 3\mathbb{Z} & ( c \neq 1 \ is \ \ square \ or \ c = -432)\\ \mathbb{Z} / 2\mathbb{Z} & (c \neq 1 \ is \ cube) \\ 0 & (otherwise)
\end{cases}
\end{eqnarray}
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解答の流れ
をまとめて解答する。
以下の順序で解答する。
① を素数とする。 を の奇数位数の有理点で とする。このとき、 ならば 。また、 ならば 。ここで は、有理点 の 座標、 座標である。
② を素数とする。 を の奇数位数の有理点とするとき、 と の 座標、 座標を素因数分解したときの の指数は同一である。
③ 奇数位数の原点でない有理点があるとすると は平方、もしくは であり、その有理点の位数は3である。
④ 位数3の点は存在してもせいぜい二つ。
⑤ 位数2の元が存在するのは、 が立方数のときに限りただ一つ存在する。また、位数4の点は存在しない。
⑥ が立方数のとき である。また、 のとき
①の解答の流れ
より、 ならば であるので である。 は整数、 なので である。 より である。
ならば はよい。 ならば 。したがって、すぐ上で示したことより のとき である。 の位数を とすると、フェルマーの定理より ここで は と素な 以下の自然数の数である。よって、 は で割れないことになるが、これは矛盾。したがって、 (解答終)
②の解答の流れ
を素数とする。 とする。 の判別式 なので、Nagell-Lutzの定理より したがって、 である。 とすると より が で割り切れることになり矛盾。したがって、 の素因数 の指数はちょうど1である。 は整数であるので、このとき、 は で割り切れる。 は で割り切れるので は で割り切れる。 は で割り切れることになり、 となり矛盾。したがって、 はせいぜい で割り切れるだけである。
整数 について を を素因数分解したときの素因数 の指数とする。 今、 とする。Nagell-Lutzの定理により である。 のとき とすると、 したがって、 このとき、 より である。 のとき である。 とすると であり、 より となり矛盾。したがって、 であり、 である。つまり、 のとき、②は成り立つ。とする。Nagell-Lutzの定理により である。また、 より である。よって、 である。したがって、2倍の公式を考えて、 であり、 これより、 である。よって、 のときでも、②は成り立つ。
また、 であれば、Nagell-Lutzの定理により である。①より とすると であり、矛盾。したがって、 が の 座標、 座標の素因子であれば必ず の素因子である。
つぎに とする。 とする。Nagell- Lutzの定理より よって したがって である。 とすると より となり矛盾。 とすると である。①より したがって、 また、 であるので、 したがって、 これは矛盾。したがって、 はせいぜい で割れる。
のとき、Nagell-Lutzの定理より よって、 さらに である。 のとき とすると、 である。よって、 である。 とする。このとき である。①より、 である。 より、 である。 とすると となり矛盾。よって
のとき に対し とすると である。よって、 かつ となる。
また、 のとき であれば、 であり、 となる。また、 である。 であれば、 とすると である。また、 とすると、、よって であり、 また、 より である。以上より、 の場合でも②がいえた。 (解答終)
③の解答の流れ
を奇数位数の点とする。そうすると より、 である。 とおけば なので 倍の公式より
かつ、
である。 は整数なので を奇数とすると、 も奇数となり矛盾。よって、 である。
:奇数とすると より も奇数。このとき、 で奇数である。
について同じことを繰り返せば、 は の倍数、かつ は奇数。これを繰り返せば、Cの有限位数有理点のx座標で2の任意のべき乗の倍数となる点が存在することになる。これはどこかで または となることを意味する。
となるのは が平方のときである。 (★)
となるのは、 が立方数のときである。このとき、ある自然数 について よって、 は、平方数でもある。 は6乗因子を有しないので である。
を偶数とすると、 かつ となる。 とすると、 のときは、 の2の指数は-2以下となり矛盾。 かつ とすると は奇数。Yも奇数。したがって、である。 について、 座標の の指数を考えると整数であることに矛盾が生じる。よって、 である。
ここで とすれば となり矛盾。したがって、 は か で割り切れるだけで, では割り切れない。
とすれば であり、 は の倍数、 となる。 であれば について同じことを行い、 の有限位数有理点で2の任意のべき乗の倍数となる点が存在することになる。よって上の議論と同様に、 は平方数か立方数の場合は となる。
残りは、 かつ のケースである。このとき である。 とすると である。このとき である。つまり、すべての素数について、 と の 座標と 座標の指数は同じである。これは、
または を意味する。
のとき(★★)、これを とおくと
よって、
したがって、
または
であれば は平方数である。
であれば、 ( :立方数) なので ここで は正奇数、 は 以上の整数である。 は 乗因子を持たないので である。また、 なので は平方数。これを満たすのは のみである。
のとき、これを とおくと
よって、
したがって、
または である。
であれば 、 は平方数である。
であれば、 (:立方数) 一方、 は平方数である。したがって、 (:平方数)。これらを満たす は存在しない。
以上より、奇数位数の零でない有理点 があるとすると は平方数、もしくは であることがわかった。(★)、(★★)より、ある自然数 について を意味する。 の零でない有理点 で 座標が 、 座標が でないの場合、 となるので、 である。これは を意味する。つまり奇数位数の元が存在すればその位数は3である。 は位数 の例である。
④の解答の流れ(位数3の元はせいぜい2つしか存在しない)
③より、位数3の元 が存在するのは、 が平方数、もしくは のときである。そのとき、 なので 、かつを意味する。 よって について
よって または が (:立方数)でなければならない。 のとき の2つである。
[tex:c=2c’ \cdot c'] のとき、 が平方数とすると、 は 乗因子を持たないので、c’は2以外の素因子を有しない。2についてもそのような場合はありえない。したがって、 は平方数ではありえない。 のとき、 である。 (解答終)
⑤の解答の流れ
が立方数の場合、 は位数2の元である。また、位数2の元は 座標が であるので 、 が立方数のときのみ唯一存在する。また、位数 の元が存在すれば となる有理点 が存在する。 とすれば、 である。よって、
これを満たす有理数解はない。よって、位数 の元は存在しない。
⑥の解答の流れ
③④⑤より が立方数かつ平方数で 乗因子を有しない、すなわち の場合を除き、 である。
また、 のとき である。
以上で、解答を終わる。