この記事は、「日曜数学 Advent Calendar 2022」の12月13日(火)の記事として書きました。
1.はじめに
第25回日曜数学会で の解を実2次体で求めた例を発表した。この中で以下の に関する2元2次不定方程式の解を用いた。
(1)
ここで
発表の中で用いた解は
(2)
というものであった。
上の不定方程式を の定める 上の代数曲面と考えれば、この解は以下のパラメータ表示を有する代数曲面上の有理曲線と考えられる。
この代数曲面は を固定すれば、有理曲線を表わすので、有理曲面と思えるが、代数曲面についての知識がないので、この代数曲面が分類上どのような曲面であり、その上の有理曲線などの代数曲線がどのくらいあるのかやその求め方については皆目わからない。一方で、5乗和を2通りに表わす有理解を求める上で、上の2元2次不定方程式の解を求めることが重要と考えていた。このため、極めて初等的な方法で2元2次不定方程式の解を求める試みを続けていた。
ここでは、代数曲面上の有理点を無限個有する有理曲線として、その結果を記しておく。
なお、一時、さまざまな無数の有理点をもつ有理曲線が見つかったと思って、日曜数学アドベントカレンダーに登録したが、あたりまえの結果しか出なかったのは残念である。
2.解を の代数式と想定して、2元2次不定方程式 を解く
不定方程式(1)において、 は偶数乗の形でのみ現れる。また、既に知られている解が
であったので、まず、 と は の多項式として表わせると仮定して解くこととした。
が の6次式、 が の4次式であることから、
とおき、 となるよう を定めることとした。
のとき、
(3)
という解が得られた。これは既に知られている解である。
のとき、
(4)
という解が得られた。
(3) の解において の絶対値としてはピタゴラス数の3組の数のうち、最大でない数を最大数で割った数のみ可能である。例えば、3/5,4/5,5/13など。
(4) の解においてはピタゴラス数の3組の数のうち、最大数を最大でない数で割った数のみ可能である。例えば、5/3,5/4,13/5など。
ところが、 に具体的な有理数を与え、不定方程式 (1) の解があるかないか、平方剰余の相互法則を用いて調べると、 など (3),(4) に当てはまらないが、(1)の解となる が多数出てくる。
そこで、 と を の多項式ではなく有理式と想定すれば、他の解が出てくるはずと考え、 を以下のような有理式として解くこととした。
ところが、未知数がたくさんの線形でない方程式が得られるだけで、具体的な解は得られそうもなかった。他にもいくつかの有理式を想定して試みたがすべてうまくいかなかった。
3. を定数と考え、 と に関する代数曲線と考えて解く
解(2)が の代数式であったので、これまで を定数と考え、や を の多項式や有理式で次数が小さなものと想定して解を求めようとしてきた。不定方程式(1)は について6次式であり、 を未知数と考えるのはすこし難しいと考えたからである。
しかし、他に手もないので、ダメもとで を定数と考え、 と の2元不定方程式と考えることにした。 を明示的に示すと(1)は以下のとおりとなる。
左辺を の項のみとし、 の次数についての降順で整理すると
となり、超楕円曲線が出てくる。この解など簡単に求まりそうもないなと思った。しかしよく見ると、右辺は の偶数乗しか出てこないので、 と に関する曲線と考えれば、楕円曲線になるではないか。そうすれば、 に具体的な値を与えればsagemathで有理点が求まる場合がある。個々の について有理点を求めてもあまり意味はないかもしれないが、一応やってみようと思った。
上式を変形すると
より とおくと、 と に関する楕円曲線のWeierstrass標準形
(5)
が得られる。ここでsagemathにより
とすると、有理点群の rank が 3 であることがわかった。
としても rank が 3、3 とすると rank が 4 、4 とすると rank が 2,5 とすると rank が 4 であることがわかった。分数にすればどうかと思い、 とするとrank が 4,2/3 とすると rank が 3 であった。
試した範囲では、どんな を代入しても、最低でも rank が 2 、ほとんどの場合rank が 3 か 4 になった。
これは何かあるに違いない。3乗和の場合には有名なラマヌジャンの恒等式があるので、この場合にも、 と を の多項式とする解があるかもしれないと期待した。
と の次数が等しいと考え、 と は以下の形と仮定した。
すると
より、左辺は の 6 次式となるが、その係数がすべて 0 となることから、 に関する以下の式が成立する。
一見すると解けそうもないが、①より、
とすると、 ③式より これを満たす有理数は のみ。
すると、⑥より とすると⑤式より
これを満たす有理数はない。
したがって、 すると、⑦より
これを満たす有理数は のみ。このとき ⑤より
これを満たす有理数はない。よって、
よって としてよい。 ここで とおくと
また、⑦式を書き直すと
と、楕円曲線であることがわかり、SageMathにより有理点を求めると、
の3点であることがわかる。以下、この3つに場合分けする。
- の場合
②~⑥は以下のとおりとなる。
⑥'より したがって、④'より である。
とすると ⑤’より すると ③'より
よって、 は解。このとき
であるので、
これは 解(3)と同一である。
とすると であるので、⑤'より これを③'に代入して
のとき
のとき
したがって、 のとき すなわち、
よって、 は解。つまり、
であるので、
この解は(4)と同一である。
の場合と の場合にも同様の手法で解を求めていくが新しい解は得られなかったので省略する。
そこで以下の形の解も探してみたが、有理数解を求められそうもない超楕円曲線が出てきたりするだけでめざす解は見つからなかった。
4.まとめ
結局、(3)、(4)の解以外は見つからなかった。ではなぜピタゴラス数ではない の解がたくさん出てくるのだろう。
考えてみれば当たり前のことであるが、有理数 を具体的に与えて、
が一つでも有理数解を持てば、それが有理点を無数に有する 上で定義された代数曲面上の有理曲線である。
最初に解(2)を見つけたので、解は を の関数としてあるはずと思い込んでしまったのが誤りであった。
まとめると、有理数体上で定義された次の代数曲面
ここで
において、有理点を無限個含む有理曲線として下表に示すものがある。これ以外のものがあるかどうかについては不明である。
\begin{array}{l|l} x=\pm 20(1-r^{2}) & r:3/5, 4/5,5/13,etc \\ y=\pm 4\sqrt{(1-r^{2})} & \\ \hline x=\pm 20/11\cdot (r^{2}+3) \sqrt{(r^{2}-1)} & r:5/3,5/4,13/5,etc \\ y=\pm 8/11\cdot \sqrt{(r^{2}-1)} & \\ \hline x^{2}-my^{2}=-a & r:fix \\ & if \ this \ equation \ has \ a \ solution \end{array}