この記事は、「日曜数学 Advent Calendar 2025」の12月15日(月)の記事として書きました。
1.はじめに
本ブログのメモ47の冒頭にも書いたが、有理整数における平方剰余の相互法則はよく知られていて、pを奇素数とするとき、整数 に対して
に解があるかどうかは、ルジャンドル記号
を計算してすぐにわかる。
具体的には と素因数分解し、出てくる可能性のある
に対し、相互法則補充法則を適用し
を求める。
については、
としてよいから
である。相互法則により
が求まるので、これを繰り返し、どんどんルジャンドル記号の分母を小さくしていけば良いのである。
3乗剰余の場合には有理整数に を付加した2次体の整数環で考えるとEisensteinの法則があるが、
]での素元を対象としたものなので、今一つ適用法がわからなかった。しかし、
に解があるかどうかは有理整数の範囲で平方剰余と同じような方法で求めたいと思うのも自然である。そういった経緯から、有理整数における3乗剰余に関する既存結果を眺めて、平方剰余風の計算法がないものか考えてみた。この小論はその試みをまとめたものである。いちいち有理整数と書くのも面倒なので、以下、整数とは有理整数のこととする。
ここに書いた計算法は、事前に準備しておくべき情報も多くあまり実用的とは思えません。ただ、こういうやり方で計算できそうだと考えていただければありがたいです。
なお、素数 が
のときは、すべての有理整数は3乗剰余なので、以下では
とする。
2.3乗剰余記号
よく知られているように、 となる整数
が一意的に定まる(例えば、本ブログの「4p=A^2+27B^2 は、なかなか凄い -第32回日曜数学会発表資料-」をご覧ください)。
このとき、 に対し3乗剰余記号
を
\begin{eqnarray}
\left( \frac{k}{p} \right)_{3}
=
\begin{cases}
1 & (kが3乗剰余のとき) \\
\omega^{sgn(B(k))}, & (kが3乗非剰余のとき) \\
0 & (k≡0 \ (mod \ p)のとき)\end{cases}
\end{eqnarray}
と定める。ここで、 が 3乗非剰余のとき
は
が成り立つときの
の符号である。 また、
である。
(注意:本来は と書きたいところだったが、複数行式の表現で
がうまく表せなかった。以下では符号を表す関数を
とすることもあります。)
なお、 であれば、
は符号を除いて定まり、
なので、上の条件で符号も定まる。
-------------------------------
命題1 3乗剰余記号 は、
に関するディリクレ指標である。つまり、
i) 3乗剰余記号は整数から複素数への関数である。
ii) ならば
iii)
iv)
v) ならば
------------------------------------
命題の証明を読むのも面倒だと思うので、説明は後のほうの 6.に書いておきます。以降の命題についても同様です。
3.3乗剰余の計算に必要な相互法則
2.で3乗剰余記号がディリクレ指標であることがわかった。つまり、乗法的指標であることがわかったので、平方剰余の場合に倣って の値を
を小さくしながら計算することを考える。
今、3を法として1に合同である素数 について
とする。 このとき、以下がいえれば平方剰余と同じような計算ができる。
① すべての なる素数について、
は
の積に分解される。ここで
は
かつ
なる素数
② は、
により定まる。
③ とするとき
--------------------------------
命題2
3を法として1に合同である素数 について
とする。このとき、
i) または
の一方が偶数であれば他方も偶数になることに注意)。
ii)
--------------------------------
これで②がいえた。
--------------------------------
命題3
3を法として1に合同である素数 について
とする。このとき、
とおくと
--------------------------------
これで③がいえた。
あとは①がいえれば良い。例えば、 または
または
かつ
なる素数
が
の原始根となればよい。実際
が500以下の場合はそうなっている。したがって、①は成り立ちそうだと期待できるが、自分自身で証明できていないし、既存の結果があるかもあるかもよくわからない。ただし、①が成り立つ範囲では3乗剰余記号を計算できるので、ひとまず良しとしよう。
4.いくつか計算してみよう
それでは、3乗剰余を具体的に計算してみよう。そのために、 型の素数について
が
以下の
と
の場合の
の値,および
の場合の3乗剰余記号の値を求めておく。その結果が下の表1,2である。


表1の見方は、上の3行が素数 とそれに対応する
の値である。例えば
については、
である。
4行目以下が の値で、横方向の素数を
、縦方向の素数を
とみて
に対する
と
に対する
から
を求めている。例えば、
に対応する
は
であるが、これは
であることを示す。ちなみに赤色はこの3乗剰余記号の値が
であることを示している。
また、表2については、例えば について
となるのは、
のとき、
となるのは
のとき、
となるのは
のときであることを示す。
それでは、早速計算してみよう。
① を求める。
なので、
3乗剰余記号は をかけても変わらないことに留意すれば
以上より
に対応する
は表1より
であるので、
に対応する
は同じく
であるので、
よって
のとき
であるので、
よって、命題2より
のとき表2より
以上より である。
② を求める。
は
のとき、
より
よって
について、表1より
なので
のとき
なので
について, 表1より
よって
のとき
より
よって
以上より
は
で3乗剰余であることがわかった。
計算は面倒であるが、途中結果より
などがわかる。
よって
一方
より は
で3乗剰余であることがわかるなど副産物もある。
以上からわかるように を計算するとして平方剰余のときの計算との違いは、
について
となる
および
以下の3 を法として1に合同な素数
について
となる
をすべて求めておき、さらに、計算を効率的に行うとすれば
の組について
を求めておかなければならない点である。このように平方剰余の場合のような計算法で3乗剰余を求めるのはあまり効率的でない。
それであれば
であるので
となる。
したがって、
のとき
のとき
のとき
である。
よって、直接 を計算したほうが断然早そうである。
5. 上に示した命題の説明について
上で証明もしくは説明なしに書いた命題について以下に説明しておく。
-------------------------------
命題1 3乗剰余記号 は、
に関するディリクレ指標である。つまり、
i) 3乗剰余記号は整数から複素数への関数である。
ii) ならば
iii)
iv)
v) ならば
------------------------------------
(説明)
定義より iii) 以外は明らかなので iii) の説明をする。
または
が
で割れるとき iii) は成り立つ。
かつ
が3乗剰余のときも iii) は成り立つ。
したがって、 とも
では割れず、
が3乗剰余で、
は3乗非剰余のケースと
とも3乗非剰余のケースを考えればよい。
① が3乗剰余で、
は3乗非剰余のケース
は3乗非剰余なので
を
で定める。
は3乗剰余なので
。したがって、
これは であることを示す。よって iii) はなりたつ。
② とも3乗非剰余のケース
のとき、
よって、
これは、 であることを示す。
のとき
よって
したがって、 これは
が3乗剰余であることを示す。
よって、
よって、iii) が成り立つ。
(説明終)
--------------------------------
(補題)
の素数について
と一意に表すとき
なる整数
について
ならば
である。ここで、 は、
により定める。
---------------------------------
(証明)
なので、両辺に
をかけると
よって
同じく、 より
(証明終)
--------------------------------
命題2
3を法として1に合同である素数 について
とする。このとき、
i) または
の一方が偶数であれば他方も偶数になることに注意)。
ii)
--------------------------------
(説明)
Kenneth S. Williamsによる "On Euler’s Criterion for Cubic Nonresidue”, Proceedings of The American Mathematical Society, Volume 49, Number 2, June 1975 のTheorem 1は以下のとおり。
------------------------------------
Teorem 1 素数 を
とするとき
かつ
ならば
かつ
ならば
-------------------------------------
i)について
この小論では としている。
または
が偶数であることと
は同値である。これについては、本ブログの「メモ47 2と3が3乗剰余になる条件について」を参照のこと。
よって、以下、 とする。
このとき も
も奇数なので
または
である。
のとき Therem 1 より、
一方、補題より
これは であることを示す。よって、
のとき Theorem 1 において
と考えれば、
これが
に等しいので、
である。よって、
ii) について
と
が同値であることは、本ブログの「メモ47 2と3が3乗剰余になる条件について」に書いた。よって、以下、
とする。
このとき、 なので
または
である。
とすると
なので Theorem 1 において
と考えれば、
一方、補題より
よって、 したがって、
とすると Theorem 1より
一方、補題より
よって、 よって、
(説明終)
--------------------------------
命題3
3を法として1に合同である素数 について
とする。このとき、
とおくと
--------------------------------
(説明)
Zhi-Hong Sunによる”On the theory of cubic residues and nonresidues”, ACTA ARITHMETICA LXXXIV.4 (1988)の Corollary 2.2 は以下のとおり。
---------------------------
Corollary 2.2 を異なる素数、
とする。このとき、
i) したがって、
であれば
と
は同値
ii) の場合の記述。ここでは使わないので省略
-----------------------------
ここで、 には符号の不定性があり、それでも成り立つということに注意する。また、
とすれば
が
で3乗剰余 ⇔
が
で3乗剰余
というヤコビの定理であることに注意。よって 以下、 とする。
であるので
で
の3乗根は
の3つである。
補題により である。
であるので、
または
である。
つまり は
または
である。これは
のとき
のとき
を意味する。つまり,
一方、Corollary2.2より、これは とすると
である。
また、 はヤコビの定理より
よって、補題により
したがって、
のとき
のとき
である。 つまり、
以上より
(説明終)
6. おわりに
あまり実用的な結果は得られなかったが、有理整数の3乗剰余の計算がとにかく平方剰余の計算と同じようにできそうなことがわかった。
3乗剰余の計算には、素数pについて なる
を知ることが不可欠である。これは
であることから2次体
の整数環における素イデアル分解を行っていることになる。結局、有理整数の範囲で3乗剰余を求めるといっても、背後には2次体がしっかり存在している。
を5以上の奇素数とするとき 素数
に対する
乗剰余も同様の方法で求められるのだろうか。
参考文献
- Kenneth S. Williams, "On Euler’s Criterion for Cubic Nonresidue”, Proceedings of The American Mathematical Society, Volume 49, Number 2, June 1975
- Zhi-ong Sun, ”On the theory of cubic residues and nonresidues”, ACTA ARITHMETICA LXXXIV.4 (1988)




