1.はじめに
自然数の5乗和 を 2通りに表せないか試みているが、なかなか手がかりが得られないので、2変数の5次の斉次式であればどうなるかやってみた。なるべくに近い形の斉次式として、以下の形を考えることとした。 のとき となる。
本メモではこの形の2変数5次斉次式を簡単に5次斉次式と呼ぶこととする。
を与えて式の値を同じにする異なる自然数の組 を求めることは困難が予想されるため、ここでは、 を先に与えて、それに対して式の値を同じにする としてどのようなものがあるか考えるというアプローチをとることとした。また、 が整数となる場合にも特に留意することとした。
2. 得られた結果
ここでは、
とする。
----------------------------------【結果1】----------------------------------
のとき、 とする は一意に定まる。
-------------------------------------------------------------------------------
これだけだと面白味がないので、より具体的な例について考えてみた。
----------------------------------【結果2】----------------------------------
代数曲線
に2つの有理点 が存在し、 かつ のとき
と異なる有理点の組で の値が等しくなる。
-------------------------------------------------------------------------------
5次の非特異代数曲線の有理点は有限個であり、それを求めるのは困難である。特異点を持つ場合は、有理点が多数ある場合もあると考えられるので、結果2に示した5次の代数曲線の特異点について検討した。
----------------------------------【結果3】----------------------------------
代数曲線 が特異点を持つのは以下の場合に限る。
のとき は特異点
のとき は特異点
をパラメータとして
のとき
は特異点
-------------------------------------------------------------------------------
次に、結果3の1)~3)のケースに対応して、有理点を求め、具体例を検討した。
有理点は、特異点を通る直線が曲線と交わる点を求めることにより得た。
最初に1)のケースについて、以下の結果が得られた。
----------------------------------【結果4】----------------------------------
- の場合
①
のとき
例えば、 のとき
② のとき
よって であれば
特に 自然数 について
-------------------------------------------------------------------------------
次に,2)のケースは以下の結果が得られた。
----------------------------------【結果5】----------------------------------
- の場合
① のとき
有理数 について、
より
② のとき
有理数 について、
より
-------------------------------------------------------------------------------
最後に、3)のケースは以下の結果が得られた。
---------------------------------- 【結果6】----------------------------------
- の場合
① とするとき
例 のとき
② とするとき
例 のとき
-------------------------------------------------------------------------------
以上より、a,bが整数の場合、異なる自然数の組に対して同じ値をとる5次斉次式として以下のものが得られた。
---------------------------------- 【結果7】----------------------------------
① のとき
自然数 について
② のとき
有理数 について、
③ のとき
有理数 について、
-------------------------------------------------------------------------------
なお、結果7の3例はもととなる5次斉次式より得られる5次代数曲線 が特異曲線の場合である。①と③の例から、 が非特異曲線となる例が得られることが知られている(第29回日曜数学会発表資料参照)。それについては、次の機会に紹介する。
3.2変数5次斉次式で自然数を2通りにあらわす
ここでは、「2.得られた結果」に記した事項について説明する。
3.1 異なる有理数の組を与えたときに同じ値をとる2変数5次斉次式
次の命題1は異なる有理数の組を与えたときに、ある条件が満たされれば、そのような斉次式は式の値を定めればただ一つ定まることを示す。
++++++++++++++++
命題1
とするとき、以下の(1),(2)は同値である。
(1)
(2)
++++++++++++++++
(証明)
(1) ⇒ (2)
より
となる。これを に関する連立一次方程式と考えて解けば(2)が得られる。
(2) ⇒ (1)
与えられた で計算すると となる。 (証明終)
命題1により、【結果1】が得られた。
命題1の条件が成り立たないとき、すなわち、
のときは、次の命題が成り立つ。
++++++++++++++++
命題2
とする。異なる有理数の組 について、
とする。
このとき、 とすれば、次のいずれかが成り立つ
(1)
(2) のどれか1つは0で、他の3つは0ではない。 とすると、 と は、代数曲線 の有理点 となる。
++++++++++++++++
(証明)
のとき、以下の3つのケースがある。
1) が のときも同様)
2) のときも同様)
3) の時も同様)
1)が成り立つとすると、 よって、(1)でないとすれば である。 とすると、 となり、 より となり、 は異なる有理数の組であることに矛盾。 の場合も同様。よって、 である。
したがって、
同様に
2)が成り立つとすると、 これより
となり、(1)がなりたつ。
3)が成り立つとすると とおくと
よって、 のとき または である。 のとき(1)が成り立つ。 とすれば より、 は異なる有理数の組であることに矛盾。 (証明終)
3.2 特異点をもつ代数曲線が導く、異なる有理数の組を与えたときに同じ式の値をとる5次斉次式の族
以下の検討では F(x,y)の値は0ではないとする。
命題1より、異なる有理数の組に対して同じ式の値をとる5次斉次式を具体的に求めることはできるが、関係するパラメータが多いため5次斉次式の係数が整数になる場合を求めるには難しそうである( を定数と考えれば、代数曲面の2つの有理点を求めることに相当すると考えられる)。
一方、命題2より、異なる有理数の組に対して同じ式の値をとる5次斉次式を求めることは、代数曲線 の有理点を2つ見つけることと関係しそうである。
++++++++++++++++
命題3
に かつ となる2つの有理点 があれば、
有理数の組 について 5次斉次式
は を式の値として有し、かつ とするとき
となる。
++++++++++++++++
(証明)
なので 両辺を で割ると
同様に
は異なる有理数なので、
とすると より これは矛盾。(証明終)
これにより【結果2】が得られた。
以上より、異なる有理数の組に対して同じ式の値をとる5次斉次式を具体的に求めるために、代数曲線 の有理点を2つ見つける方法があることが分かった。これは代数曲面の有理点を求めるより見込みがありそうである。
とはいえ代数曲線 は有理点 を有するものの、それ以外の有理点を直接見つけることは困難と考えられる。このため、有理数を多くもつと考えられる特異点を有する場合から考えてみる。
++++++++++++++++
命題4
代数曲線 が特異点を持つのは以下の場合に限る。
1) のとき は特異点
2) のとき は特異点
3) をパラメータとして のとき は特異点
++++++++++++++++
(証明)
この多項式 が重根を持つ条件を探せばよい。
・ を特異点に持つ場合:
が を解に持つことが必要十分。つまり
より つまり
なお、このとき、
・ を特異点に持つ場合
が を重解に持つことが必要十分。したがって
がともに を解に持つことが必要十分
を解いて
なお、このとき、
・ 以外を特異点に持つ場合
が 以外の重根を持つ場合を考えればよい。
が解であれば も解であるので
両者の係数を比較し、 とすればよい。
なお、このとき、 (証明終)
これで【結果3】が得られた。
次に命題4の特異点を有する代数曲線 3つのケースについて、特異点を通る直線が曲線と交わる点を求めることにより有理点を求める。
3.2.1 の場合の有理点
(★)
は、 となる。 を通る直線 との交点を求めると より
のとき
が有理数であるためには この方程式の判別式が平方であることが必要十分。
したがって、
これよりパラメータ をもちいて
と表せる。2番目の式より
これを の式に代入して
のとき より
のとき同様に
以上より
は 代数曲線(★)の有理点である。
つまり、
かつ のとき
は と の関数なので、5次斉次式も と の関数となる。 を等しくするような異なる が2組あれば、同一の5次斉次式について同じ値をとる有理数の組 が2組得られるので、命題3を適用できる。
++++++++++++++++
命題5
のとき
(i) でない有理数 について
(ii) でない有理数 及び でない有理数 について とすると
または
その時
となり、実際に また、
++++++++++++++++
(証明)
(i) 定義より
(ii) とすると
これを整理して
これを に関する2次方程式とみれば判別式は有理数の2乗でなければならない。
判別式
有理数 について
の2次式である右辺を平方完成すると
よって
したがって、有理数 が存在して
よって
もともとのtの2次方程式の解は
(+ のとき)
(-のとき)
なお、その時の の値は
となる。
が成り立つとき、同じ斉次式に対し
よって、
(証明終)
命題5の の式に を掛ければ
さらに をかけて
(★★)
が成り立つ。
また、 のとき
よって であれば 特に 自然数 について
これが【結果4②】
命題5では、 も の値も複雑すぎで見通しが悪いので、 を の関数として具体的な値を与えた場合について以下に示す。
++++++++++++++++
系 とすると
このとき、
++++++++++++++++
(証明)
命題5 において とすると
となる。
その時の を計算すると
となる。この値を と とすると
(★★)の に を代入して
両辺に をかけて
となる。 (証明終)
これで【結果4】の①が得られた。
例えば、 とすると
で両辺をわって
さらに、で両辺を割り、 に注意すると
を整数とするとき、 は整数となるので、整係数の5次斉次式で異なる有理数の組に対して同じ値をとるものが得られた。
3.2.2 の場合の有理点
(★)
このとき、 である。 を通る直線 との交点を求めると
より
● のとき
(★★★)
* のとき
から (★)への接線を引くと
(★★★★)
が2重根を持つことになるので
と共通根を持つことになる。この方程式が有理解を持つためには判別式が平方であることが必要十分
したがって
これよりパラメータ を用いて
よって、
これが(★★★★)の解となるのは、
もしくは
のとき
のとき後者は が解となる。この時
(★★★★)は となる。
(★)は
直線 は で2重に交わり、また、3で交わる。つまり がこの曲線の有理点。
(★)は が有理点の 座標なら も有理点のX座標。したがって、 も有理点。
と を通る直線は(★)とこの2点以外で交わらない(おそらく、無限遠点で2重根)
他の有理点は分からないので、このケースでは命題3を適用できていない。
* のとき
これが有理解を持つのは判別式が平方。つまり、
が有理解を持つこと。この一般解は
パラメータ を用いて
これより
これが(★★★)の有理解 となることはない。
● 2つ以上の0でない解を探す。
* 以外のときは不明
* のとき
(★)は となる。
をとおり、傾きが の直線との交点を求めると
より の交点は
を解いて これがどんな についても成り立つ。このとき より
したがって、有理数 について
* のとき
(★)は
を通る直線 との交点を求めると
より のとき したがって、
よって任意の有理数 について
ただし
よって、
よって、 のとき
有理数 について、
これが【結果5】である。
3.2.3 と表されるとき
このとき、
を通る直線をひき、交点を求める。
とすると
で除すと
- の場合
とすると
これが有理解を持つためには判別式が平方、つまり、
これよりパラメータ により
有理解 は
<+ 符号のとき>
よって、
<- 符号のとき>
よって
例: のとき
これで【結果6】①が得られた。
- の場合
に対し、一つ有理解が見つかれば、他は2次方程式になるので、その方程式が解けるための の条件も求めやすくなる。例えば、 を解に持つのは、 つまり、 の場合である。
このとき、解くべき方程式は
内 の2次方程式が有理数解を有するのは判別式が平方の場合、つまり
が有理数解 を有する場合である。
そのためには、 が有理数解を持てばよい。
この解は パラメータ を用いて とあらわせる。
このとき、元の方程式の解は、
したがって、
のとき
または
よって
例
のとき
よって【結果】②が得られた。
以外の例は不明である。