1. はじめに
メモ42で「有限体Fpにおける原始根の3の倍数乗+1の分布についての予想」について書き、数日後に、それが成り立たないことを報告した。
当然といえば当然であるが、有限体における楕円曲線上の有理点の個数については、既に様々な研究成果があり、今回の予想はそれに派生して生じた問題であるので、既に結果が出ていることが分かった。浅学菲才に恥じ入るばかりである。
Silverman・Tateの”Rational Points on Elliptic Curves”(以下[Sil]とする)第4章2. ガウスの定理の説明の真似をして、この問題に一つの結論を得たので、メモとして残しておくことにする。
なお[Sil]によればガウスの定理とは以下をいう。
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定理(ガウス)
を有限体 の元、 を の射影平面での解の数とする。このとき、
- であれば
- であれば となる整数が符号を除き一意で定まり、 の符号を で定めれば、
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2. 問題の設定と解答
有限体 における原始根の 3の倍数乗+1の分布について、問題を以下のように設定する。
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問題
を の素数、 を有限体 の原始根とする。このとき、
を のべき乗であらわした時の指数を で考えるとき、指数が となる元の個数を求めよ。
-----------------------
このとき、問題の解答は以下のとおり。
-----------------------
解答
となる整数が符号を除き一意で定まり、 とすれば
指数0の個数:
指数1と指数2の元の個数の大きい方の数:
指数1と指数2の元の個数の少ない方の数:
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この結果をメモ42にあげた例に適用したのが下表である。
指数0の個数 指数1と指数2の個数:大の方 指数1と指数2の個数:小の方
ちなみに、メモ42に述べた予想が成り立つとすると、指数1と指数2の元の個数の差の絶対値は 以下であるので、 、また、指数0と指数1及び指数0と指数2の元の個数の差の絶対値も 以下であるので、
より、 の取りうる値は有限である。具体的に求めると、予想が成り立つのは、上表にある のみとなる。結果として、なんとも情けない予想であった。
3. 解答の流れ
それでは、[Sil] の説明をまねて解答の流れを記す。
3.1 記号の準備など
を の素数、 を位数 の有限体、 を の原始根とする。
また、 を以下のとおりとする。
このとき、以下が成り立つ。
・
・ 集合 の位数は である。
・ は、 の乗法群 の指数3の部分群であり、 に対し
に対し
・
・
問題は、の位数を求めることである。
これらの3つの集合の位数を とおく。つまり、
とする。
そうすると
3.2 解答の前に命題をいくつか準備
について以下の命題1が成り立つ。
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命題1 以下の集合間には1対1対応が存在する。したがって、集合の位数は同じ
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(証明)
に対し
を定めれば良い。
に対し
を定めれば良い。
も同様
に対し
より
を定めればよい。
も同様
(証明終)
また、 間の和集合について以下の命題2が成り立つ。
--------------------------
命題2 以下が成り立つ。
--------------------------
(証明)
命題1 より
命題1 より
したがって、
一方、
したがって、
と同様
(証明終)
天下り式であるが、後で使うので以下を示しておく。
--------------------------
命題3
とおくと
は が のどれに属すかのみに依存し、
のとき)
のとき)
のとき)
--------------------------
(証明)
のとき
集合として なので、 は が のどれに属すかのみに依存する。
今 とする。 に対し を与える写像 を考える
であり、べき指数を考えて
とすれば なので は単射である。
とすると と書ける。
このとき、 とすると、 かつ である。よって、 は全射である。
したがって、
のとき
命題1. より
同様に、 のとき
のとき のとき のとき とすると
よって
一方 であるので
(証明終)
3.3 ガウス和を用いた問題の解答
改めて問題とその解答を示す。
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問題
を の素数、 を有限体 の原始根とする。このとき、
を のべき乗であらわした時の指数を で考えるとき、指数が となる元の個数を求めよ。
-----------------------
このとき、問題の解答は以下のとおり。
-----------------------
解答
となる整数が符号を除き一意で定まり、 とすれば
指数0の個数:
指数1と指数2の元の個数の大きい方の数:
指数1と指数2の元の個数の少ない方の数:
-------------------------
(解答)
ガウス和を用いて を求める。
を の 乗根 とし
とおき、
を求める。
である。
次に を求める。
ここで
命題3により、 は が のどれに属するかにのみ依存する。 を のとき のとき のとき とすると、
ここで
命題3の議論と同様に は ごとに同一であるので、それぞれ とする。
を取ると で
したがって、 に対し
同様に
よって
同様に
よって
命題3の証明で示したように、
よって
次に を求める。
これらを加えて
ここで を解とする方程式
の判別式 の平方根を考える。
次に、 とおく。すると
よって を解とする方程式は
判別式 は
一方、 なので
よって
の素数について 整数 は とすれば一意的に定まる(ここは[Sil]と同じなので省く)。
よって、
よって
に注意すれば。
指数0の元の個数lは、
とすれば、すなわち とすれば
より
とすれば、すなわち、 とすれば
よって
指数1と指数2の元の個数の大きい方の数:
指数1と指数2の元の個数の小さい方の数:
(解答終)
それにしても、ガウス和というのは不思議だ。