ES 地面の目印

以前の数学メモは、地面の目印 -エスワン- にあります。

メモ18 タクシー2の素因子

 ラマヌジャンのタクシー数1729は、2つの自然数の立方和として2通りに表せる最小の自然数としてあまりに有名である。

  1729=10^3+9^3=12^3+1^3

である。

 今、2つの自然数の立方和として2通りに表せる自然数をタクシー2と呼ぶことにする。そうすると、小さい方から、1729 , 4104 , 13832 , 20683 , 32832 , 39312 , 40033 , 46683 , 64232 , 65728 ・・・・・ などとなる。 

 タクシー2を素因数分解すると、

 

1.       1729=7\cdot 13\cdot 19

2.       4104=2^3\cdot 3^3\cdot 19   

3.      13832=2^3\cdot 7\cdot 13\cdot 19   

4.      20683=13\cdot 37\cdot 43   

5.      32832=2^6\cdot 3^3\cdot 19   

6.      39312=2^4\cdot 3^3\cdot 7\cdot 13   

7.      40033=7^2\cdot 19\cdot 43   

8.      46683=3^3\cdot 7\cdot 13\cdot 19   

9.      64232=2^3\cdot 7\cdot 31\cdot 37   

10.    65728=2^6\cdot 13\cdot 79   

 ・・・・・・・・

 

となる。なお、左端の数字は、小さい方から並べた時のタクシー2の順番である(出典:小さい方から1000個のタクシー2のリスト。https://gist.github.com/mjdominus/cc67be601f9e178b3ee7)。注目したいのは、素因子として現れるのは、2, 3 と p≡1 (mod 3) なる素数のみである。 5, 11, 17, 23,・・・など p≡⁻1 (mod 3)なる素数はタクシー2の素因子になるのだろうか。タクシー2にある数の3乗をかければその数もタクシー2なので、設問としては、p≡⁻1 (mod 3)なる素数はタクシー2の指数1の素因子になるのだろうか、ということになる。

 

 例えば、5,11,17,23 については以下のとおりである。

 

131.  7882245 = 3^3\cdot  \color{red}5\cdot 7\cdot  19\cdot  439

 98.   4607064 = 2^3 \cdot 3^3\cdot 7 \cdot \color{red}1\color{red}1\cdot 277

146.  8872487 = 13\cdot \color{red}1\color{red}7\cdot 19\cdot 2113

325.  43852536 = 2^3\cdot 3^3\cdot 7\cdot 13\cdot \color{red}2\color{red}3\cdot 97

 

となる。

 これを  p≡1 (mod 3)なる素数と比較すると以下のとおりである(赤字が p≡ー1 (mod 3)なる素数)。

 

 p :  指数1の素因数となるタクシー2の順番

 5 : 131

 7 :   1

11 :  98

13 :   1

17 : 146

19 :   1

23 : 325

29 :   

31 :   7

37 :   2

41 : 541

43 :   2

47 : 951  372243384=2^3\cdot 3^3\cdot 37\cdot \color{red}4\color{red}7\cdot 991 

53 :

59 :

61 :  12

67 :  15

73 :  44

79 :   8

83 :

89 :

97 :  21

・・・  

 このように、p≡-1 (mod 3)なる素数はタクシー2の素因数としてめったに現れないことがわかる。実際、タクシー2の指数1の素因数となることがあるだろうか。結論から言うと、以下が成り立ち、実際にその数を求めることができる。

 

命題

p≡-1 (mod 3)なる素数pを指数1の素因数とするタクシー2が存在する。

 

 (説明)

 タクシー2は

 x^3+y^3=z^3+w^3

を満たし、どの数も相異なる自然数解である。この不定方程式の有理数解は、以下で与えられる(出典:ウィキペディア)。

 x=t\{1-(a-3b)(a^2+3b^2)\}      y=t\{(a+3b)(a^2+3b^2)-1\}

 z=t\{(a+3b)-(a^2+3b^2)^2\}      w=t\{(a^2+3b^2)^2-(a-3b)\}

これらの立方和を求めると

x^3+y^3 = z^3+w^3

= 18b\cdot t^3(a^2+3b^2)(a^6+9a^4b^2+27a^2b^4+27b^6-2a^3-6ab^2+1)

となる。

 p≡⁻1 (mod 3) なるpに対し、 t, a, b を (1)~(5)の条件を満たすようにとれれば、求めるタクシー2が得られる。

 

 (1)tとaは分子分母ともpに割り切れない

 (2)bの分母はpで割り切れない。分子はpで割り切れるが

                   p^2で割り切れない

 (3)a^2+3b^2 の分子分母ともにpで割り切れない。

 (4)a^6+9a^4b^2+27a^2b^4+27b^6-2a^3-6ab^2+1

     の分子分母はpで割り切れない

 (5)x,y,z,w はすべて自然数

 

今、 a=a’/k, b=p/k, t=k^4 で a', k は自然数でpで割り切れないとすると(1),(2)は満たされる。

a^2+3b^2=\cfrac{a'^2+3p^2}{k^2}  であるので(3)も満たされる。また、

 a^6+9a^4b^2+27a^2b^4+27b^6-2a^3-6ab^2+1

=\cfrac{a'^6+9a'^4p^2+27a'^2p^4+27p^6-2a'^3k^3-6a'k^2+k^6}{k^6}

a'^6+9a'^4p^2+27a'^2p^4+27p^6-2a'^3k^3-6a'k^2+k^6

\equiv a'^6-2a'^3k^3-6a'k^2+k^6 = (a'^3-k^3)^2 \pmod p

である。 (3,p-1)=1より m*3=1+n(p-1)なる自然数m,nが存在する。 

a'-k=a'^{3m-n(p-1)}-k^{3m-n(p-1)}

\equiv a'^{3m-n(p-1)}a'^{n(p-1)}-k^{3m-n(p-1)}k^{n(p-1)}=a'^{3m}-k^{3m}

=(a'^3-k^3)(a'^{3(m-1)}+a'^{3(m-2)}k^3+\cdots+a'^3k^{3(m-2)}+k^{3(m-1)}) \pmod p

であるので、(4)が成り立つためには、a’-kがpで割り切れなければよい。

 次に(5)が成り立つためには、

  x=t\{1-(a-3b)(a^2+3b^2)\} \gt 0       (6)  

  y=t\{(a+3b)(a^2+3b^2)-1\} \gt 0      (7)

  z=t\{(a+3b)-(a^2+3b^2)^2\} \gt 0    (8)  

  w=t\{(a^2+3b^2)^2-(a-3b)\} \gt 0    (9)

 であればよい。 t>0,  a<3b とすれば (6)は成り立つ。このとき、

(a+3b)-(a^2+3b^2)^2 \gt (a+3b)-(9b^2+3b^2)^2=a+3b-144b^4

(a^2+3b^2)^2-(a-3b) \gt 3b-a \gt 0

なので、144b^4-3b \lt a \lt 3b であれば (8),(9)が成り立つ。このようなaが存在するためには、

144b^4-3b \lt 3b より b \lt \cfrac{1}{2 \cdot 3^{1/3}}  

であればよい。このとき、

(a+3b)(a^2+3b^2) \gt 144b^4((a+3b)^2-6ab-6b^2)

\gt 144b^4((144b^4)^2-24b^2)=144b^6(144^2b^6-24)=144(144b^6-1/12)^2-1

 であるので、(a+3b)(a^2+3b^2)-1 \gt 0  であるためには

 144(144b^6-1/12)^2 \gt 2 すなわち b>0 に注意して

b^6 \gt \cfrac{1}{144} \cdot \cfrac{1+\sqrt{2}}{12} であれば十分である。

また、a,bの分母はkであり、(6),(7),(8),(9)はa,bの4次式以下であるので、x,y,z,wは整数となる。さらに

(\cfrac {1}{144} \cdot \cfrac {1+\sqrt{2}}{12})^{1/6} \lt b= \cfrac {p}{k} \lt \cfrac {1}{2 \cdot 3^{1/3}} は

 2 \cdot 3^{1/3} \cdot p \lt k \lt 2 \cdot (\cfrac{27}{1+\sqrt{2}})^{1/6} \cdot p に同値であることに注意する。

 

 以上より、a,b,kを 以下を満たすように選べば求めるタクシー2が得られる。

 

     ・  2 \cdot 3^{1/3} \cdot p \lt k \lt 2 \cdot (\cfrac{27}{1+\sqrt{2}})^{1/6} \cdot p となるkを選ぶ

このとき、 2 \cdot 3^{1/3} \cdot p \lt 2.9 \cdot p \lt k  \lt 2.99 \cdot p \lt 2 \cdot (\cfrac{27}{1+\sqrt{2}})^{1/6} \cdot p であるので、p>20であればそのようなkを選べる。次に

 

 ・  144 \cfrac{p^4}{k^3}-3p \lt a' \lt 3p かつ a'-k はpで割り切れないように自然数a'を選ぶ

2.9 \cdot p \lt k \lt 2.99 \cdot p を満たすkについて

 144 \cfrac{p^4}{k^3}-3p = 3p(\cfrac{144}{3} \cdot \cfrac{p^3}{k^3}-1) \lt 3p(\cfrac{144}{3} \cdot \cfrac{1}{2.9^3}-1) \lt 2.91 \cdot p  であるので p>25であれば そのようなa'を選ぶことができる。

 

 ・ a=a'/k, b=p/k, t=k^4 とする。

 

 p<25 については、既に命題でいうタクシー2の存在はわかっているので、すべてのp≡⁻1 (mod 3)なる素数について命題が成り立つ。      (説明終)

 

 以下、p=29 のときの例を示す。

 2 \cdot 3^{1/3} \cdot 29=83.65 \cdots , 2 \cdot (\cfrac{27}{1+\sqrt{2}})^{1/6} \cdot 29 = 86.73 \cdots

 したがって、k=84,85,86

・k=84 のとき 144 \cfrac{29^4}{84^3}-3 \cdot 29 =84.83 \cdots, 3 \cdot 29 = 87

 したがって、a'=85,86

・k=85 のとき 144 \cfrac{29^4}{85^3}-3 \cdot 29 =78.84 \cdots, 3 \cdot 29 = 87

 したがって、a'=79~86

・k=86 のとき 144 \cfrac{29^4}{86^3}-3 \cdot 29 =73.12 \cdots, 3 \cdot 29 = 87

 したがって、a'=74~86

 

  例えば、 k=84, a'=85 とすると

 x=51424800, y=91051968

    z=6921584, w=96208912

    x^3+y^3=z^3+w^3=890856179126505119711232

                                     =2^{15} \cdot 3^5 \cdot 7^3 \cdot 29 \cdot 2437 \cdot 10273 \cdot 449269

を得る。

 また、 k=85, a'=79 とすると

 x=58160145, y=71459415

    z=25137054, w=81720696

    x^3+y^3=z^3+w^3=561636436170812440347000

                =2^3 \cdot 3^3 \cdot 5^3 \cdot 7 \cdot 13 \cdot 17^3 \cdot 29 \cdot 79 \cdot 313 \cdot 595261

を得る。