(10/27追記)いつも記事を読んで下さるNさんから記事の楕円曲線Eの有理点について、記事にあるもの以外に
も解であり、これは記事にある有理点とは独立のようだ、というご指摘をいただきました。
確かにこれも有理点であり、s=2とした場合の 上の楕円曲線のrankと生成元をsagemathにより求めると、
と
は独立であることがわかりました。したがって、楕円曲線 のrankは2以上となります。
1. はじめに
以下の 上の楕円曲線 の有理解を見つけるという問題に出会った。
変形すると
となるので は、楕円曲線 の有理解である。
で に有理数を代入すると、 上の楕円曲線が得られる。この楕円曲線の有理点群のランクをいくつかの についてsagemathで求めると以下のようになる。
0 1
1 楕円曲線にならない。
3/2 5
4/3 4
2 3
3 5
4 途中でエラー
1/2 3
1/3 5
2/3 5
1/4 途中でエラー
3/4 4
このように、 であればrankは3以上となるので、 には上記以外の有理解があるのではないかと期待した。
なお、 で を とすると
両辺に を掛けると
となるので、 に有理数 と を代入した時の楕円曲線のrankは同一となる。
そこで、以下の2つについて少し考えてみた。
楕円曲線 について 有理点 とは独立な有理点を見つける。
を の有理関数としたとき、 上の楕円曲線 の有理点を見つける。
についての補足は以下のとおり。
- について:
上記のように、 上の楕円曲線の に具体的な値を入れて 上の楕円曲線を得ることをspecializationといい、有限個の有理数を除いて、 の楕円曲線の有理点群から 上の楕円曲線の有理点群への準同型は単射となるようだ(Silverman’s Specialization Theoremによる)。
したがって、上の楕円曲線 をspecializationした楕円曲線のrankが3以上だからといって、 のランクが2以上になるとは限らない。しかし、他の有理解が見つかると別の問題を考える上で好都合なので、敢えて考えることにした。
- について:
上の楕円曲線 の の係数と の係数の符号を変えたものは、ともに2乗の形をしているので、以下の 上の楕円曲線 で有理点を考えるとどうなるか興味があった。
ここで は正の有理数とする。
ともに特に結果といえる結果は出なかったが、備忘録としてメモしておく。
2. 問題A
楕円曲線 は
と書けるので、有理解 があれば の有理関数dが存在して
これを に関する2次方程式とみれば、 の有理関数 があって、
となる。
ここで、
ただし、 は有理数
となる解がないかどうか未定係数法でsgemathを使って調べた。ただ面倒なだけなので途中の計算は省くが、 という解、つまり しかなかった。このとき、
であるから、これはすでに知られている解である。
なお、
という形をよくよく見ると、 という解がありそうな感じがする。
実際、
とすると、
となる。このとき、
または
とすると
となる。
のとき となる。
よって、これまでに得られた楕円曲線Eの有理点は、
は楕円曲線 の有理点である。
後で見るように、これらからなる有理点群のランクは1である。
3.問題B
次の の定める楕円曲線Fを考える。
ここで は正の有理数とする。
問題Aは の場合に相当する。
はこの曲線上の有理点である。この有理点を とする。 は位数無限大の有理点となる(説明は省く)。
すぐわかるように は位数2の有理点である。
また、、 である。
つぎに他の有理点を探してみる。
すぐわかるように となる有理解 について、 はこの曲線上の有理点である( は の場合に相当する)。このような は
の有理解であるので、有理数 が存在して
となる。これより、
としてよい。したがって、
とすれば、
または
である。よって のとき は有理点である。
は正の有理数であるので, とおけば
である。ここで を におきかえても は不変であることに注意する。
よって、 が正となるように正有理数 を定めると は楕円曲線 の有理点である。なお、この2点を結ぶ直線は原点を通るので、 である。
次に、この有理点が、 と の生成する有理点群に含まれる場合を考える。
と の生成する有理点群で 座標が正になるのは または に限ること、
に注意して、 が の 座標に等しい場合をチェックする。
・ が の 座標に等しくなる場合
より これは の定め方よりありえない。
・ が の 座標に等しくなる場合
より
このとき、 なので、 である。
・ が の 座標に等しくなる場合
よって、
は有理数の平方となるので とおくと、
のとき
は正有理数であることに注意すれば
以上をまとめると、下の楕円曲線Fにおいて
とするとき は位数無限大の有理点。 は位数2の有理点であり、
となる。
また、 は有理点であるが、 のとき の 座標 の 座標、 が平方数で のとき の 座標 の 座標 である。
それ以外の時は、 の 座標 の 座標のケースや の整数倍が、 と から生成される群に含まれる可能性はあるが、そうしたケースはまれなので、ほぼ楕円曲線Fのrankは2以上となる。
具体例を図示すると以下のとおり。
- のケース
- のケース
このように
のとき上図となり、 のとき下図となる。
のもとでは となることはない。
4. 問題Bの結果を問題Aに適用
(となる符号を選ぶ)
の場合に相当する。
とすれば
となるので、問題Bの結果から は独立でなく、楕円曲線Eのランクが2以上かどうかわからない。