ES 地面の目印

以前の数学メモは、地面の目印 -エスワン- にあります。

メモ36 楕円曲線 y^2=x^3+a^2*x^2-b^2*x の有理解について

 (10/27追記)いつも記事を読んで下さるNさんから記事の楕円曲線Eの有理点について、記事にあるもの以外に

  (-16 \cdot (s^{10}+1)^{2}, 48 \cdot (s^{10}+1)^{3}) も解であり、これは記事にある有理点とは独立のようだ、というご指摘をいただきました。

 確かにこれも有理点であり、s=2とした場合の Q 上の楕円曲線のrankと生成元をsagemathにより求めると、

  (-16 \cdot (s^{10}+1)^{2}, 48 \cdot (s^{10}+1)^{3}) と

  (20(s^{20}-1),10 \cdot s^{5} \cdot 20(s^{20}-1)) は独立であることがわかりました。したがって、楕円曲線 E のrankは2以上となります。

1. はじめに

 以下の Q(s) 上の楕円曲線 E の有理解を見つけるという問題に出会った。

   Y^{2}=T^{3}+100 \cdot s^{10} \cdot T^{2}-20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2} \cdot T \hspace{20pt} (E)

 変形すると

   Y^{2}=T \cdot \{ T^{2}-20^{2} \cdot (s^{20}-1)^2 \} +(10 \cdot s^{5} \cdot T)^{2}

となるので T= \pm 20(s^{20}-1) \ Y= \pm 10 \cdot s^{5} \cdot T  は、楕円曲線 E の有理解である。

 Es有理数を代入すると、Q 上の楕円曲線が得られる。この楕円曲線の有理点群のランクをいくつかの s についてsagemathで求めると以下のようになる。

    s :  \  \ rank

    0   1

    1     楕円曲線にならない。

    3/2  5

    4/3  4

    2   3

    3   5

    4  途中でエラー

    1/2  3

    1/3  5

    2/3  5

    1/4 途中でエラー

    3/4   4

 このように、 s \neq 0,1 であればrankは3以上となるので、E には上記以外の有理解があるのではないかと期待した。

 なお、Es1/s とすると

   Y^{2}=T^{3}+100/s^{10} \cdot T^{2}-20^{2}(1/s^{20}-1)^{2} \cdot T

 両辺に s^{60} を掛けると

   (s^{30} \cdot Y)^{2}=(s^{20} \cdot T)^{3}+100 \cdot s^{10} \cdot (s^{20} \cdot  T)^{2}-20^{2} \cdot (1-s^{20})^{2} \cdot (s^{20} \cdot T)

となるので、E有理数 s1/s を代入した時の楕円曲線のrankは同一となる。

 そこで、以下の2つについて少し考えてみた。

A: 楕円曲線 E について 有理点  ( \pm 20(s^{20}-1), \pm 200 \cdot s^{5} \cdot (s^{20}-1)) とは独立な有理点を見つける。

B: a,bs の有理関数としたとき、Q(s) 上の楕円曲線 F: y^{2}=x^{3}+a^{2} \cdot x^{2}-b^{2} \cdot x の有理点を見つける。

 A,B についての補足は以下のとおり。

  • A について:

 上記のように、Q(s) 上の楕円曲線s に具体的な値を入れて Q 上の楕円曲線を得ることをspecializationといい、有限個の有理数を除いて、Q(s)楕円曲線の有理点群から Q 上の楕円曲線の有理点群への準同型は単射となるようだ(Silverman’s Specialization Theoremによる)。

 したがって、上の楕円曲線 E をspecializationした楕円曲線のrankが3以上だからといって、E のランクが2以上になるとは限らない。しかし、他の有理解が見つかると別の問題を考える上で好都合なので、敢えて考えることにした。

  • B について:

 Q(s) 上の楕円曲線 Ex^{2} の係数と x の係数の符号を変えたものは、ともに2乗の形をしているので、以下の Q(s)上の楕円曲線 F で有理点を考えるとどうなるか興味があった。

   y^{2}=x^{3}+a^{2} \cdot x^{2}-b^{2} \cdot x \hspace{10pt} (F)

 ここで a,b は正の有理数とする。

 A,B ともに特に結果といえる結果は出なかったが、備忘録としてメモしておく。

 

2. 問題A

 楕円曲線 E

   Y^{2}=T^{2} \cdot [ \{ T^{2}-20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2} \}+(10 \cdot s^{5})^{2} \cdot T ]/T

と書けるので、有理解  \neq 0 があれば  s の有理関数dが存在して

    \{ T^{2}-20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2} \}+(10 \cdot s^{5})^{2} \cdot T=d^{2} \cdot T

    T^{2}+ \{ (10 \cdot s^{5})^{2}-d^{2} \} T-20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2}=0

これを T に関する2次方程式とみれば、s の有理関数 D があって、

   D^{2}= \{ (10 \cdot s^{5})^{2}-d^{2} \}^{2}+4 \cdot 20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2} \\= d^{4}-200 \cdot s^{10} \cdot d^{2}+20^{2} \cdot (4 \cdot s^{40}+17 \cdot s^{20}+4)

となる。

 ここで、

   d=A \cdot s^{10}+B \cdot s^{5}+C 

   D=G \cdot s^{20}+H \cdot s^{15}+I \cdot s^{5}+J \cdot s+K 

    ただし、A,B,C,G,H,I,J,K有理数

となる解がないかどうか未定係数法でsgemathを使って調べた。ただ面倒なだけなので途中の計算は省くが、A=C=0, B= \pm 10 という解、つまり d= \pm 10 \cdot s^5 しかなかった。このとき、

T^{2}=20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2} であるから、これはすでに知られている解である。

 なお、

   D^{2}= \{ (10 \cdot s^{5})^{2}-d^{2} \}^{2}+4 \cdot 20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2}

という形をよくよく見ると、D= \{ (10 \cdot s^{5})^{2}+d^{2} \} という解がありそうな感じがする。

 実際、

    \{ (10 \cdot s^{5})^{2}+d^{2} \}^{2}= \{ (10 \cdot s^{5})^{2}-d^{2} \}^{2}+4 \cdot 20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2}

とすると、

   2 \cdot d^{2} \cdot (10 \cdot s^{5})^{2}=-2 \cdot d^{2} \cdot (10 \cdot s^{5})^{2}+4 \cdot 20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2}

    d^{2} \cdot (10 \cdot s^{5})^{2}=20^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2}

    d= \pm 2 \cdot (s^{20}-1)/s^{5}

となる。このとき、

   T=1/2 [ - \{ (10 \cdot s^{5})^{2}-d^{2} \} \pm D ]

   =1/2 [ - \{ (10 \cdot s^{5})^{2}-d^{2} \} \pm \{ (10 \cdot s^{5})^{2}+d^{2} \} ]

   =d^{2} または -100 \cdot s^{10}

   T=d^{2}=4 \cdot (s^{20}-1)^{2}/s^{10} とすると

   Y= \pm \{2\cdot (s^{20}-1)/s^{5} \} ^{3} となる。

   T=-100 \cdot s^{10} のとき Y= \pm 200 \cdot s^{5} \cdot (s^{20}-1) となる。

 よって、これまでに得られた楕円曲線Eの有理点は、

   (0,0)

    ( \pm 20(s^{20}-1), \pm 10 \cdot s^{5} \cdot 20(s^{20}-1)) 

    (-100 \cdot s^{10}, \pm 200 \cdot s^{5} (s^{20}-1) )

    (2^{2} \cdot (s^{20}-1)^{2}/s^{10}, \pm 2^{3} \cdot (s^{20}-1)^{3}/s^{15})

楕円曲線 E の有理点である。

後で見るように、これらからなる有理点群のランクは1である。

 

3.問題B

 次の x,y の定める楕円曲線Fを考える。 

  y^{2}=x^{3}+a^{2} \cdot x^{2}-b^{2} \cdot x \hspace{15pt}(F)

   ここで a,b は正の有理数とする。

 問題Aは a=10 \cdot s^{5} \ b=20 \cdot (s^{20}-1)  の場合に相当する。

 

 x=b,y=ab はこの曲線上の有理点である。この有理点を P=(b,ab) とする。P は位数無限大の有理点となる(説明は省く)。

 すぐわかるように P_{0}=(0,0) は位数2の有理点である。

また、-P=(b,-ab)P+P_{0}=(-b,ab) である。

 

 つぎに他の有理点を探してみる。

 すぐわかるように x^{2}+a^{2} \cdot x-b^{2}=d^{2} \cdot x となる有理解  x_{0} について、(x_{0},d \cdot x_{0}) はこの曲線上の有理点である( Pd=a の場合に相当する)。このような x_{0}

 x^{2}+(a^{2}-d^{2}) \cdot x-b^{2}=0 の有理解であるので、有理数 D が存在して

 (a^{2}-d^{2})^{2}+4 \cdot b^{2}=D^{2}  

となる。これより、

 a^{2}-d^{2}=(1-t^{2})/(1+t^{2}) \cdot D, \ b=t/(1+t^{2}) \cdot D  

としてよい。したがって、

 b=t/(1-t^{2}) \cdot (a^{2}-d^{2})

とすれば、 

 x_{0}=1/2 \cdot (-a^{2}+d^{2} \pm D) = t^{2}/(1-t^{2}) \cdot (a^{2}-d^{2}) または -1/(1-t^{2}) \cdot (a^{2}-d^{2})

である。よって  t \neq 1 のとき (bt,btd),(-b/t,-b/t \cdot d) は有理点である。

a は正の有理数であるので, k=d/a とおけば

 b=t/(1-t^{2}) \cdot (1-k^{2}) \cdot a^{2}

である。ここで t-1/t におきかえても b は不変であることに注意する。

 よって、b が正となるように正有理数 a,k,t を定めると (bt,btak),(-b/t,-b/t \cdot ak)楕円曲線 F の有理点である。なお、この2点を結ぶ直線は原点を通るので、(-b/t,-b/t \cdot ak)+(bt,btak)+P_{0}=0 である。

 

 次に、この有理点が、PP_{0} の生成する有理点群に含まれる場合を考える。

 PP_{0} の生成する有理点群で x 座標が正になるのは P または -P に限ること、

 2 \cdot P=(b^{2}/a^{2},-b^{3}/a^{3})

 3 \cdot (b,ab)=(b(a^{2}+b)^{2}/(b-a^{2})^2,ab(a^{2}+b)(a^{4}+3b^{2})/(b-a^{2})^{3})

に注意して、btP, \ 2 \cdot P, \ 3 \cdot Px 座標に等しい場合をチェックする。

 

・ btPx 座標に等しくなる場合

  bt=b より t=1 これは b の定め方よりありえない。

 

・ bt2 \cdot Px 座標に等しくなる場合

  b^{2}/a^{2}=bt より

  b=t \cdot a^{2} 

このとき、b=t/(1-t^{2}) \cdot (1-k^{2}) \cdot a^{2} なので、t=k である。 

 

・ bt3 \cdot Px 座標に等しくなる場合

  b(a^{2}+b)^{2}/(b-a^{2})^{2}=bt

よって、(a^{2}+b)^2/(b-a^{2})^{2}=t

  t有理数の平方となるので t=r^{2} とおくと、

  a^{2} \lt b のとき

  a^{2}+b=r \cdot a^{2}-r \cdot b

  (1-r)a^{2}=-(1+r)b=-(1+r)r^{2}/(1-r^{4}) \cdot (1-k^{2}) \cdot a^{2}

  (1-r)^{2} \cdot (1+r^{2})=-r^{2} \cdot (1-k^{2})

  k^{2} \cdot r^{2}=(1-2r+r^{2})(1+r^{2})+r^{2}=1-2r+3r^{2}-2r^{3}+r^{4}

  \hspace{5pt} =(1-r+r^{2})^{2}

  k は正有理数であることに注意すれば

  k=(1-r+r^{2})/r

 

 以上をまとめると、下の楕円曲線Fにおいて 

 y^{2}=x^{3}+a^{2} \cdot x^{2}-b^{2} \cdot x

 b=t/(1-t^{2}) \cdot (1-k^{2}) \cdot a^{2}

とするとき P=(b,ab) , Q=(-a^{2},ab) は位数無限大の有理点。P_{0}=(0,0) は位数2の有理点であり、

 P+Q=(-b,-ab)

 P+P_{0}=(-b,-ab)

となる。

 また、R=(bt, bt \cdot ak) は有理点であるが、t=k のとき 2 \cdot Px 座標 = R x 座標、 t が平方数で k=(t- \sqrt{t}+1)/ \sqrt{t}  のとき 3 \cdot P x 座標 = R x 座標 である。

 それ以外の時は、n \cdot Px 座標  =Rx 座標のケースや R の整数倍が、PP_{0} から生成される群に含まれる可能性はあるが、そうしたケースはまれなので、ほぼ楕円曲線Fのrankは2以上となる。

 

具体例を図示すると以下のとおり。

 

  • a=2,t=5,k=3/2,b=25/24 のケース

  • a=2,t=5,k=11/2,b=195/8 のケース

このように

  a^{2} \gt b のとき上図となり、a^{2} \lt b のとき下図となる。

  a,b,t,k \gt 0 のもとでは a^{2}=b となることはない。

 

4. 問題Bの結果を問題Aに適用

 楕円曲線Eは楕円曲線Fにおいて

 a=10 \cdot s^{5},b= \pm 20(s^{20}-1) (b \gt 0となる符号を選ぶ)

の場合に相当する。

 t=k= \pm (s^{20}-1)/5/s^{10} とすれば 

 t/(1-t^{2}) \cdot a^{2}(1-k^{2})=t \cdot a^{2}= \pm 20(s^{20}-1)

となるので、問題Bの結果から P,R は独立でなく、楕円曲線Eのランクが2以上かどうかわからない。