ES 地面の目印

以前の数学メモは、地面の目印 -エスワン- にあります。

メモ39 自然数を2通りの自然数の組による2変数整数係数5次斉次式の値としてあらわす

1. はじめに

 「メモ38 自然数を2通りの自然数の組による2変数5次斉次式の値としてあらわす」では、有理数を2通りの有理数の組による2変数5次斉次式の値としてあらわすケースについて紹介した。

2変数5次斉次式としては、以下の形のものを考えた。

  F(x,y)=x^{5}+ax^{4}y+bx^{3}y^{2}+bx^{2}y^{3}+axy^{4}+y^{5}

 メモ38は、 F(-x,-y)=-F(x,y) 及び x,y,F(x,y) の分母の公倍数の5乗を掛ければ F(x,y),x, y が整数になることに注意すれば、自然数を2通りの整数の組による2変数5次斉次式の値としてあらわすケースといっても同じである(この「整数の組」を「自然数の組」とする場合は、さらに制限がかかることになる)。

 このメモでは、a,bが整数の場合、つまり、自然数を2通りの整数の組による2変数整数係数5次斉次式の値としてあらわすケースについて検討する。

 また、関連して、z^{5}=F(x,1) という形の代数曲線(特殊な場合を除き非特異)の有理点の例を示した。

 最後に、自然数を2通りの自然数の組による2変数自然数係数5次斉次式の値としてあらわせるケースは、あまり見つけられなかったことを記した。

 

2.メモ38から得られたケース

 メモ38に記したケースのうち、自然数を2通りの整数の組による2変数整数係数5次斉次式の値としてあらわすケースとして明示的に示したのは、以下のとおりである。

 

① a=5, b=3a-5=10 のとき

F(x,y)=x^{5}+5x^{4}y+10x^{3}y^{2}+10x^{2}y^{3}+5xy^{4}+y^{5}=(x+y)^{5}

よって x+y=z+w であれば F(x,y)=F(z,w) 

特に 自然数 n について F(1,n)=F(2,n-1)=F(3,n-2)=・・・・=F(n,1)=(n+1)^{5}

 

② a=1, \ b=-2 のとき

F(x,y)=x^{5}+x^{4}y-2x^{3}y^{2}-2x^{2}y^{3}+xy^{4}+y^{5}=(x+y)^{3}(x-y)^{2}

有理数 m,n \ne 0,1 について、 

F( (1+m^{5})/(2m^{2}),(1-m^{5})/(2m^{2}))=F( (1+n^{5})/(2n^{2}),(1-n^{5})/(2n^{2}))=1

 

③ a=-3, \ b=2 のとき

F(x,y)=x^{5}-3x^{4}y+2x^{3}y^{2}+2x^{2}y^{3}-3xy^{4}+y^{5}=(x+y)(x-y)^{4}

有理数 m,n \ne 0,1 について、 

F( (m^{5}+1)/(2m),(m^{5}-1)/(2m))=F( (n^{5}+1)/(2n),(n^{5}-1)/(2n))=1

 

④  a=l^{10}+5, \  b=3l^{10}+10 のとき

F(x,y)=x^{5}+(l^{10}+5)x^{4}y+(3l^{10}+10)x^{3}y^{2}+(3l^{10}+10)x^{2}y^{3} \\ +(l^{10}+5)xy^{4}+y^{5}=(x+y)^{3}(x^{2}+(l^{10}+2)xy+y^{2})

F( (l^{5}-1)/l^{6},1/l^{6})=F(-(1+l^{5})/l^{6},1/l^{6})=1

 

このうち、2通りの自然数の組で自然数をあらわすことができるのは、①、②、③に限る。なおかつ、a,b ともに自然数となるのは、①のケースのみである。

 

3. F(x,1)が重根を持たない2変数整数係数5次斉次式により自然数を2通りの整数の組で表現できる例

 2. にあげた例は  F(x,1) がいずれも重根を持つケースであった。ここでは、2. の4つの例から導ける F(x,1) が重根を持たない例を紹介する。

 メモ38で見たように、2変数5次斉次式

F(x,y)=x^{5}+ax^{4}y+bx^{3}y^{2}+bx^{2}y^{3}+axy^{4}+y^{5} について、F(x,y)=F(z,w) かつ  xyzw \ne 0, \ xz \ne yw, \ xw \ne yz となる4つの有理数 x, \ y, \ z, \ w とその時のFの値 k \ne 0 を与えれば、a, \ b は定まる(メモ38命題1)。

 メモ38の【結果3】より、F(x,1) が重根を持つ場合は、以下の場合に限られる。

 1) \ \ b=3a-5

 2) \ \ b=-a-1

 3) \ \ b=1/4(a^{2}+2a+5)

 以下では、いずれの場合も(x,y), \ (z,w) を与えたとき、a, \ bk の関数となり、特定の k を除き、F(x,1) が重根を持たない例を得ている。

 

① a=5, b=10 からの算出

(x,y)=(m,l-m), (z,w)=(n,l-n) \ \ F(x,y)=F(z,w)=l^{5}-l^{3}mn(l-m)(l-n)k とおくと

a=5+(-lm + m^{2} - ln + n^{2})k

b=10+(l^{2} - 3lm + 3m^{2} - 3ln + 3n^{2})k

となる。 

 整数 l, \ m, \ n, \ k について  l \gt m,n \gt 0 かつ  (1/2, \ 1/2) を中心として半径 1/ \sqrt{6} の円内に  (m/l-1/2, \ n/l-1/2) が入り、  k \lt 0 であれば  a, \ b, \ F(m,l-m)=F(n,l-n)自然数である。 

例:l=5, \  m=3, \ n=2 のとき (m/l-1/2)=1/10, \   (n/l-1/2)=-1/10  

 \hspace{20pt} 1/10^{2}+1/10^{2}=1/50 \lt 1/6  

このとき k=-1 とすれば a=17, \ b=21, \ F=7625

       \hspace{20pt} k=1とすれば a=-7, \ b=-1, \  F=-1375

 

② a=1, \ b=-2 からの算出

m, \ n, \ p, \ q を整数として

(x,y)=( (m^{5}+p^{5})n^{3}q^{2}, (m^{5}-p^{5})n^{3}q^{2})

(z,w)=( (n^{5}+q^{5})m^{3}p^{2},(n^{5}-q^{5})m^{3}p^{2})

F(x,y)=F(z,w)=m^{15}n^{15}q^{10}p^{10}(32+8(q^{10}-n^{10})(p^{10}-m^{10})k)

とすると

a=1+(m^{10}n^{10}-p^{10}q^{10})k

b=-2+(-m^{10}n^{10}-3p^{10}q^{10})k

となる。

 よって、0 でない整数 k, \ m, \ n, \ p, \ q について x, \ y, \ z, \ w \gt 0 になるためには、

 m, \ n \gt 0 かつ m \gt |q| , \ n \gt |q|  または  m, \ n \lt 0 かつ |m| \gt |p|, \ |n| \gt |q|  が必要。

このとき、a, \ b が同時に正になることはない。

例:k=1, \ m=3, \ p=2, \ n =7, \ q=5 のとき

a=16669880978202, \ b=-16709880978203

F(2358125,1809325)=F(2152656,1477656) \\ \ =86237274378384771733922975651344320000000000

 

③ a=-3, \  b=2 からの算出

(x,y)=( (m^{5}+1)n,(m^{5}-1)n), (z,w)=( (n^{5}+1)m,(n^{5}-1)m)

F(x,y)=F(z,w)=8m^{5}n^{5} \{ 4+(m^{10}-1)(n^{10}-1)k \}

とすると

a=(m^{10}+n^{10}-2)k-3

b=-(m^{10}+n^{10}+2)k+2

となる。

 したがって、整数  k, \ m, \ n に対し  a,b がともに非負整数となることはない。また、自然数  m, \ n, \ k について  m \gt 1, \ n \gt 1 であれば x, \ y, \ z, \ w, \ F自然数

例: k=1, \ m=2, \ n=3 とすれば、

 a=60068, \ b=-60073

 F(99,93)=F(488,484)=3757743166464

 

 a=l^{10}+5 b=3l^{10}+10 から算出

 x=(l^{5}-1), \ y=1, \ z=-(l^{5}+1), \ w=1  

 F(x,y)=F(z,w)=l^{20} \{ (l^{10}-1)k+l^{10} \}

とすると

 a=(l^{10}+1)k+5

 b=(4l^{10}+3)k+3l^{10}+10

となる。

 したがって、整数 k,l に対し x, \ y, \ z, \ w がすべて自然数になることはない。

 

4. 非特異曲線 y^{5}=x^{5}+ax^{4}+bx^{3}+bx^{2}+ax+1 の有理点

 3. ①~④にあげた例から それぞれ y^{5}=F(x,1) という形の非特異曲線の有理点が得られる。

① a=5, b=10 からの算出

 3.①で l=n とすると

(x,y)=(m,l-m), \ (z,w)=(l,0)

a= 5+m(-l+m)k

b=10+(l^{2}-3lm+3m^{2})k

となり

F(x,y)=F(z,w)=l^{5}

つまり

 l^{5}=x^{5}+ax^{4}y+bx^{3}y^{2}+bx^{2}y^{3}+axy^{4}+y^{5}

 (l/y)^{5}=(x/y)^{5}+a(x/y)^{4}+b(x/y)^{3}+b(x/y)^{2}+a(x/y)+1

したがって、(m/(l-m),l/(l-m) ) は k の如何にかかわらずこの5次曲線の有理点である。

 

② a=1, \ b=-2 からの算出

 3.②で n=q とすると

(x,y)=( (m^{5}+p^{5})n^{5},(m^{5}-p^{5})n^{5})

(z,w)=(2n^{5}m^{3}p^{2},0)

a=1+n^{10}(m^{10}-p^{10})k

b=-2+n^{10}(-m^{10}-3p^{10})k

となり

F(x,y)=F(z,w)=m^{15}n^{25}p^{10}32

つまり

(2n^{5}m^{3}p^{2})^{5}=x^{5}+ax^{4}y+bx^{3}y^{2}+bx^{2}y^{3}+axy^{4}+y^{5}

 \{ (2n^{5}m^{3}p^{2})/y \} ^{5}=(x/y)^{5}+a(x/y)^{4}+b(x/y)^{3}+b(x/y)^{2}+a(x/y)+1

(2n^{5}m^{3}p^{2})/y=2m^{3}p^{2}/(m^{5}-p^{5})

x/y=(m^{5}+p^{5})/(m^{5}-p^{5})

より  ( (m^{5}+p^{5})/(m^{5}-p^{5}),2m^{3}p^{2}/(m^{5}-p^{5}) )k の如何にかかわらずこの5次曲線の有理点である。

 

③ a=-3, \  b=2 からの算出

 3.③で n=1, \ m \ne 1 とすると

(x,y)=(m^{5}+1, m^{5}-1), \  (z,w)=(2m,0)

a=(m^{10}-1)k-3

b=-(m^{10}+3)k+2

となり

F(x,y)=F(z,w)=32m^{5}n^{5}

つまり

(2m)^{5}=x^{5}+ax^{4}y+bx^{3}y^{2}+bx^{2}y^{3}+axy^{4}+y^{5}

(2m/y)^{5}=(x/y)^{5}+a(x/y)^{4}+b(x/y)^{3}+b(x/y)^{2}+a(x/y)+1

2m/y=2m/(m^{5}-1), \   x/y=(m^{5}+1)/(m^{5}-1) より

(2m/(m^{5}-1), (m^{5}+1)/(m^{5}-1) )k の如何にかかわらずこの5次曲線の有理点である。

 

④ a=l^{10}+5 b=3l^{10}+10 から算出

 3.④で k=-1 または 

       l^{10} \{ (l^{10})^{m}+(l^{10})^{m-1}+ \cdots +(l^{10})+1 \} =l^{10} \{ l^{10(m+1)}-1 \} /(l^{10}-1)

  (m: 非負整数) なお、m=-2 のとき k=-1 となることに注意。

のとき

a=l^{10} \{ l^{10(m+1)}-1 \} (l^{10}+1)/(l^{10}-1)+5

b=(4l^{10}+3)l^{10} \{ l^{10(m+1)}-1 \} /(l^{10}-1)+3l^{10}+10

となり

(x,y)=( (l^{5}-1), 1), \ (z,w)=(-(l^{5}+1), \ 1) について

F(x,y)=F(z,w)=l^{20} \{ (l^{10}-1) k+l^{10} \} =l^{20} [ l^{10} \{ l^{10(m+1)}-1 \} +l^{10} ]

                =l^{20}l^{10(m+2)}=l^{10(m+4)}

(l^{5}-1,l^{2(m+4)} )(-(l^{5}+1), \ l^{10(m+4)} ) は5次曲線の有理点である。

 

5. 最後に

 結局、自然数を2通りの整数の組による2変数自然数係数5次斉次式の値としてあらわすケースとして求められたのは、以下のとおりである。

 

整数 l, \ m, \ n, \ k について 

 l \gt m, n \gt 0 かつ (1/2,1/2) を中心として半径  1/ \sqrt{6} の円内に(m/l-1/2,n/l-1/2) が入る。

 k \lt 0 

のとき

a=5+(-lm + m^{2} - ln + n^{2})k

b=10+(l^{2} - 3lm + 3m^{2} - 3ln + 3n^{2})k

F(m,l-m)=F(n,l-n)=l^{5}-l^{3}mn(l-m)(l-n)k \\ \hspace{110pt} =l^{3} \{ l^{2}-mn(l-m)(l-n)k \}

はすべて自然数である。