ES 地面の目印

以前の数学メモは、地面の目印 -エスワン- にあります。

メモ23  タクシー数:2通りに表せる場合とn(>2)通りに表せる場合(その2)

1.はじめに

(注)2022年4月14日に誤りを発見し、図1、図2等を訂正しました。タクシー2を与えるa,bのペアは、より狭い範囲となりました。

 メモ22の本文の最後に、「3乗の違いを除けば、タクシー2は、2つの自然数の3乗和としてn通りに書けることになる。」と書いた。つまり、「自然数」を「正の有理数」に変えて、「タクシー2は、2つの正の有理数の3乗和としてn通りに書けることになる。」といっても同じである。本メモでは、それについて調べたことをを書いてみたい。

 ウィキペディアによると「n番目のタクシー数(タクシー数、taxicab number、Ta(n)もしくはTaxicab(n)と表記される)とは、2つの立方数の和として n 通りに表される最小の正の整数と定義される。」であり、1954年にハーディらによりTa(n)の存在が証明されたとある。さらに、

 

  Ta(1)=2

     Ta(2)=1729

     Ta(3)=87539319

     Ta(4)=6963472309248

     Ta(5)=48988659276962496

     Ta(6)=24153319581254312065344

 

としている。

 nが大きくなれば、Ta(n)はものすごく大きくなりそうであるが、1729であっても ある自然数 S が存在して、 1729*S^{3} は 2つの立方数の和として n 通りに表わされるのであるから、たかが自然数といっても馬鹿にできない。無限とはどこまでも広がっているものだと実感させられる。ちなみにメモ22の本文の最後に、1729にある自然数の3乗を掛けた数が、2つの立方数の和として4通りに表わされる例を実質的に示している。

 本メモは、メモ22の続きであるので、そこでの定義をそのまま踏襲し、命題の番号は連続させることとする。

2.どのようにパラメータa,b,tを指定すればタクシー2が得られるか。

 3つの有理数  a, b≠0,t≠0 に対し、

     p_{1}=6tb(a^{2}+3b^{2}),  A_{1}=2t \lbrace 1-a(a^{2}+3b^{2}) \rbrace  

      p_{2}=6tb, \hspace{40pt} A_{2}=2t \lbrace a-(a^{2}+3b^{2})^{2} \rbrace 

     x_{1}=(p_{1}+A_{1})/2, y_{1}=(p_{1}-A_{1})/2, x_{2}=(p_{2}+A_{2})/2, y_{2}=(p_{2}-A_{2})/2

とすると 、m=x_{1}^{3}+y_{1}^{3}=x_{2}^{3}+y_{2}^{3} は広義タクシー2を与える。これがタクシー2を与えるのはどのような場合だろうか。

 そのために、まず、x_{1}, y_{1}, x_{2}, y_{2} が正になる条件を考える。これは、正の有理数の立方で2通りに表せる自然数を探すことになる。その自然数x_{1}, y_{1}, x_{2}, y_{2} の分母の最小公倍数の3乗を掛ければタクシー2が得られることになる。

 メモ22にも書いたように、広義タクシー2の表現には8通りあるが、メモ22の命題2及び  x_{1}, y_{1}, x_{2}, y_{2} がすべて正であるとすると、 b \gt 0, a^{2}+3b^{2} \leqq 1, t \gt 0 としてよい。したがって、x_{1} \gt 0, y_{1} \gt 0, x_{2} \gt 0, y_{2} \gt 0 となる (a,b) を求めるには、

     ① b \gt 0

     ② a^{2}+3b^{2} \leqq 1

     ③  3b(a^{2}+3b^{2})+ \lbrace 1-a(a^{2}+3b^{2}) \rbrace  \gt 0

     ④  3b(a^{2}+3b^{2})- \lbrace 1-a(a^{2}+3b^{2}) \rbrace \gt 0

     ⑤  3b+ \lbrace a-(a^{2}+3b^{2})^{2} \rbrace \gt 0

     ⑥  3b- \lbrace a-(a^{2}+3b^{2})^{2} \rbrace \gt 0

 

をすべて満たす (a,b) を求めればよい。sageのregion_plot などのグラフ機能を用いて①~⑥を満たす領域を求めるとると図1の青色の領域が該当する。

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図1:x1, y1, x2, y2 がすべて正である広義タクシー2:m=x1^3+y1^3=x2^3+y2^ を生成する(a,b)の領域

 ちなみに、①の境界が水色、③の境界が緑、④の境界が赤、⑤の境界がマゼンタ、⑥の境界が黄色を示している。

 

 3.自然数の3乗の和として2通りに表せる数にある自然数の3乗を掛ければ、n(>2)通りに表せる

 いよいよ、1.はじめに に書いたことを命題7で説明する。厳密な証明ではなく感覚的な説明であることをご容赦下さい。

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(命題7)

タクシー2 の集合 T_{2}の ~ による同値類は どんなn(n>2)についても、タクシーnにより代表される。 つまり、タクシー2に自然数の3乗掛ければ、自然数の立方の和としてn通りに表せる。

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(説明)

  m \in T_{2} とすると、相違なる自然数  ∃x_{1}, y_{1}, x_{2}, y_{2}

      m=x_{1}^{3}+y_{1}^{3}=x_{2}^{3}+y_{2}^{3}

である。また、有理数 a,b,t があって、

      p_{1}=6tb(a^{2}+3b^{2}),A_{1}=2t(1−a(a^{2}+3b^{2}))

      p_{2}=6tb, \hspace{40pt} A_{2}=2t(a−(a^{2}+3b^{2})^{2})

      x_{1}=(p_{1}+A_{1})/2,y_{1}=(p_{1}−A_{1})/2,x_{2}=(p_{1}+A_{1})/2,y_{2}=(p_{1}−A_{1})/2

となる。

 このとき、命題1の系1のより b≠0 である。

 命題4,5により、平面3次曲線 

      x^{3}+3kx^{2}y+3xy^{2}+9ky^{3}−1=0 \hspace{15pt} (6)

ここで、 k=k(a,b)= \lbrace 1−a(a^{2}+3b^{2)} \rbrace / \lbrace 3b(a^{2}+3b^{2}) \rbrace

の有理点  (a′,b′)≠(a,b),(1,0) が存在すれば  x_{1}, y_{1}, x_{2}, y_{2} とは異なる有理数  x_{3}, y_{3} が存在して、

      x_{1}^{3}+y_{1}^{3}=x_{2}^{3}+y_{2}^{3}=x_{3}^{3}+y_{3}^{3}

但し、 x_{3}とy_{3} が正であるためには、 (a',b') が図1の青色の領域にあることが必要十分である。こうした  (a',b') がn個存在すれば、mの定める同値類はタクシーnで代表されることになる。

  k=A_{1}/p_{1}=(x_{1}-y_{1})/(x_{1}+y_{1}) であり、命題2よりmの8つの表現の仕方によって同値であることは変わらないので、 x_{1} \gt y_{1} \gt 0 としてよい。その時、 0 \lt k \lt 1 である。図2に  k=0 k=1 の場合の式(6)平面3次曲線のグラフを示す。

 オレンジが k=1/4、赤線が k=1 のときのグラフである。 k=1 のときは(6)の曲線は④の境界線と同一となる。

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図2:x^3+3kx^2y+3xy^2+9ky^3-1=0 のグラフ (k=1/4, 1)

 式(6)で表わされる平面3次曲線の(1,0)における微分係数は、(6)式をxで微分して

      3x^{2}+6kxy+3kx^{2} \frac{dy}{dx} +3y^{2}+6xy \frac{dy}{dx} +27ky^{2} \frac{dy}{dx} =0

より

       \frac{dy}{dx} =-(x^{2}+2kxy+y^{2})/(kx^{2}+2xy+9ky^{2})

であるので、

      \left. \frac{dy}{dx} \right|_{x=1} = -1/k  

である。したがって、 0 \lt k \lt 1 のとき(6)式の平面3次曲線は青色領域と交わる。

 図2だと少しわかりにくいので(1,0)の付近を拡大した図3を以下に示す。

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図3:x^3+3kx^2y+3xy^2+9ky^3-1=0 のグラフと青色領域の交わり

 (6)式の表す平面3次曲線は、無限遠点を付け加えると楕円曲線であり、その有理点群のランクは1以上である(メモ22の命題6の説明を参照)。この平面3次曲線の実数点の集合は連結であるので、リー群としてR/Zと同型。この部分群で位数が無限の部分群は稠密である(この議論は、https://math.stackexchange.com/questions/4336651/dense-rational-points-of-an-elliptic-curve/4338154#4338154 による)。したがって、(6)式の平面3次曲線は青色領域の中に無数の有理点を含む。     (説明終)