ES 地面の目印

以前の数学メモは、地面の目印 -エスワン- にあります。

メモ15 2つの立方数の和を3とおりに表すパラメータ解を求めて

 メモ14で 正の立方数の和を3とおりで表わすパラメータ解を求めた。ただし、それは2変数同次8次式となりあまり簡明なものではなかった。もう少し、低次の多項式でパラメータ解がないか、いろいろ試したがなかなかうまくいかない。その試みにも何か意味があるかと思い、ここに書き残しておく。

 

1.x^3+y^3=m のパラメータ表示

 パラメータ表示は、いろいろな やり方があると思うが、ここでは、x, yu,v の同次2次式であらわすことを考える。

  最初に以下の命題を示す。

(命題1)
\qquad        p=ax^2+buv+cv^2 \\\qquad q=du^2+euv+fv^2 \\\qquad r=gu^2+h uv+iv^2 \\\qquad t=Au^2+Buv+Cv^2

とおくとき、4qr-p^2=3t^2 となるように複素数 a,b,c,d,e,f,g,h,i,A,B,C を定めれば、
x=(p+t)/2,y=(p-t)/2とおくとき、x^3+y^3=pqr である。

  この命題で、a,b,c,d,e,f,g,h,i,A,B,C が整数であれば、正とは限らないが立方数 のパラメータ表示が得られる。

(説明) x+y=p,3xy=3/4(p^2-t^2)=p^2-qr より

x^3+y^3=(x+y)(x^2-xy+y^2)=(x+y)\{(x+y)^2-3xy\}\\\hspace{33pt}=p\{p^2-(p^2-qr)\}=pqr         (説明終)

\begin{eqnarray}\left\{\begin{array}{l}p=ax^2+buv+cv^2\\q=du^2+euv+fv^2 \\ r=gu^2+huv+iv^2 \\t=Au^2+Buv+Cv^2\end{array} \right.\end{eqnarray}

 とおくとき

qr = (du^2+euv+fv^2)(gu^2+huv+iv^2)\\ \hspace{10pt}= dgu^4+(dh+eg)u^3v+(di+fg+eh)u^2v^2+(ei+fh)uv^3+fiv^4
p^2 = (au^2+buv+cv^2)^2\\ \hspace{10pt}= a^2u^4+2abu^3v+(2ac+b^2)u^2v^2+2bcuv^3+c^2v^4
より
4qr-p^2 = (4dg-a^2)u^4+\{4(dh+eg)-2ab\}u^3v\\ \hspace{40pt} + (4di+4fg+4eh-2ac-b^2)u^2v^2\\\hspace{40pt} +\{4(ei+fh)-2bc\}uv^3+(4fi-c^2)v^4
である。また、
t^2 = (Au^2+Buv+Cv^2)^2\\ \hspace{10pt}= A^2u^4+2ABu^3v+(2AC+B^2)u^2v^2+2BCuv^3+C^2v^4

 であるので、 4qr-p^2=3t^2 が成立するためには、

\begin{eqnarray}\left\{\begin{array}{l}4dg-a^2=3A^2\hspace{130pt}(1)\\4dh+4eg-2ab=3\cdot2AB\hspace{83pt}(2) \\ 4di+4fg+4eh-2ac-b^2=3\{2AC+B^2\} \hspace{10pt}(3)\\4ei+4fh-2bc=3\cdot2BC\hspace{86pt}(4)\\4fi-c^2=3C^2\hspace{133pt}(5)\end{array} \right.\end{eqnarray}

であればよい。 

 

(1)~(5)が成り立つ例を以下に示す。

(例1) 

(1)は   \{\frac{(a+A)}{2}\}^3+\{\frac{(a-A)}{2}\}^3=a\cdot d\cdot g であることを示す。(5)も同様である。よって、タクシー数1729の例より

a=19, d=7, g=13, A=1, c=13, f=7, i=19, C=11 が(1)、(5)の一つの解である。

(2), (3), (4)にこの解を入れて整理すると

(2) → 28h+52e-38b=6B\hspace{29pt}(6)

(3) → 402+4eh-b^2=66+3B^2\hspace{10pt}(7)

(4) → 76e+28h-26b=66B\hspace{27pt}(8) 

 (6), (8)をh,B連立方程式として解くと

 \hspace{30pt} 5h=-62e+49b\hspace{30pt}(9)

\hspace{30pt} 5B=2e+b\hspace{40pt}(10)

 これを (7) に代入し、b,e の式とすると

 \hspace{30pt} (7b-16e)^2+3(5e)^2=3(2\cdot 5\cdot 7)^2=14700

 この式で b,eが整数となる解は

(b,e)=(31,7), (-31,-7), (1,7),(-1,-7), (32,14), (-32,-14) のみ

 

  • (b,e)=(31,7) のとき

(9), (10) より、h=31,B=9 したがって、

 a=19, b=31,c=13,d=7, e=7,f=7,g=13, h=31,A=1, B=9, C=11

これより

p=19u^2+31uv+13v^2, q=7u^2+7uv+7v^2, r=13u^2+31uv+19v^2

t=u^2+9uv+11v^2

よって、命題1より

x=(p+t)/2=10u^2+20uv+12v^2, y=(p-t)/2=9u^2+11uv+v^2

(10u^2+20uv+12v^2)^3+(9u^2+11uv+v^2)^3\\=(19u^2+31uv+13v^2)(7u^2+7uv+7v^2)(13u^2+31uv+19v^2)

なお、上式の右辺は u,v の対称式なので

(10u^2+20uv+12v^2)^3+(9u^2+11uv+v^2)^3\\=(12u^2+20uv+10v^2)^3+(u^2+11uv+9v^2)^3

が成り立つ。

 

  •  (b,e)=(-31,-7) のとき

(b,e)=(31,7) の場合のパラメータ解で v-v に置き換えた解が得られる。

 

  • (b,e)=(1,7) のとき

(9), (10) より、h=-11,B=3 したがって、

 a=19, b=1,c=13,d=7, e=7,f=7,g=13, h=-11, A=1, B=3, C=11

これより 

(10u^2+2uv+12v^2)^3+(9u^2-1uv+v^2)^3\\=(19u^2+uv+13v^2)(7u^2+7uv+7v^2)(13u^2-11uv+19v^2)

 

  • (b,e)=(-1,-7) のとき

(b,e)=(1,7) の場合のパラメータ解で v-v に置き換えた解が得られる。 

 

  • (b,e)=(32,14) のとき

(9), (10) より、h=20,B=12 したがって、
 a=19, b=32,c=13,d=7, e=14,f=7,g=13, h=-20, A=1, B=12, C=11
これより
(10u^2+22uv+12v^2)^3+(9u^2+10uv+v^2)^3\\=(19u^2+32uv+13v^2)(7u^2+14uv+7v^2)(13u^2+20uv+19v^2)

 

  • (b,e)=(-32,-14) のとき

(b,e)=(32,14) の場合のパラメータ解で v-v に置き換えた解が得られる。

 

 2.x_{1}^3+y_{1}^3=x_{2}^3+y_{2}^3=m のパラメータ表示

  上の例で、(b,e)=(31,7) のとき、すでにこの例が 出ている。改めて示すと、

 

(10u^2+20uv+12v^2)^3+(9u^2+11uv+v^2)^3\\=(12u^2+20uv+10v^2)^3+(u^2+11uv+9v^2)^3\\=(19u^2+31uv+13v^2)(7u^2+7uv+7v^2)(13u^2+31uv+19v^2)

である。この求め方を振り返ると、mu,v の対称式となることを利用している。そこで、1 の議論で最初から

 

\begin{eqnarray}\left\{\begin{array}{l}p=ax^2+buv+cv^2\\q=du^2+euv+dv^2 \\ r=cu^2+buv+av^2 \\t=Au^2+Buv+Cv^2\end{array} \right.\end{eqnarray}

 

とおき a,b,c,d,e,A,B,C を求めれば m=pqru,v の対称式となるので、立方数を2通りに表すパラメータ解が得られることになる。

この時、解くべき式は

 

\begin{eqnarray}\left\{\begin{array}{l}4dc-a^2=3A^2\hspace{130pt}(11)\\4db+4ec-2ab=3\cdot2AB\hspace{83pt}(12) \\ 4da+4dc+4eb-2ac-b^2=3\{2AC+B^2\} \hspace{10pt}(13)\\4ea+4db-2bc=3\cdot2BC\hspace{86pt}(14)\\4da-c^2=3C^2\hspace{133pt}(15)\end{array} \right.\end{eqnarray}

 

である。

 

(例2) 

例1. では、タクシー数1729を用いた例を示したが、ここでは、相違なる整数の3乗和としてあらわされる最小の自然数91を用いる

 

 91=7\cdot 13=3^3+4^3=6^3+(-5)^3

4\cdot 13\cdot 1-7^2=3\cdot 1^2

4\cdot 13\cdot 7-1^2=3\cdot 11^2

 

であるので、(11),(15) の解として、 a=7, c=1, d=13, A=1, C=11 が得られる。

この解を、(12)と(14)に代入すると

 

\begin{eqnarray}\left\{\begin{array}{l}52b+4e-14b=6B\\28e+52b-2b=66B\end{array} \right.\end{eqnarray}

 

であるので、B=-9b,e=-23b である。

これを(13)に代入して、

 

 4\cdot 13\cdot 7+4\cdot 13\cdot 1+4\cdot (-23b)\cdot b-2\cdot 7\cdot 1-b^2=3(2\cdot 1\cdot 11+(-9b)^2)

 

したがって、b=1 または -1 である。以上より、解

 

a=7, b=1, c=1,d-13, e=-23, A=1,B=-9, C=11    ケース1

a=7, b=-1, c=1,d-13, e=23, A=1,B=9, C=11      ケース2

 

が得られた。

ケース1のとき

 

\begin{eqnarray}\left\{\begin{array}{l}p=7x^2+uv+v^2\\q=13u^2-23uv+13v^2 \\ r=u^2-9uv+11v^2 \\t=u^2+-9uv+11v^2\end{array} \right.\end{eqnarray}

 

なので、

 

\frac{p+t}{2}=4u^2-4uv+6v^2

\frac{p-t}{2}=3u^2+5uv-5v^2

 

よって

 

(4u^2-4uv+6v^2)^3+(3u^2+5uv-5v^2)^3\\=(6u^2-4uv+4v^2)^3+(-5u^2+5uv+3v^2)^3

 

これは、有名なラマヌジャン恒等式である。

 

ケース2は v-v に置き換えたパラメータ解に相当する。

 

 次回は3とおりのケースの悪戦苦闘について紹介する。